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経営者の頭の中を言語化する編集力。「出版」を通して事業を研ぎ澄ます
「自分の持つノウハウを“見える化”する」「新しいアイディアを創出する」「プロダクトやシステムの完成度が高まる」「自社やサービスの認知度が上がる」「問い合わせや受注が増える」
出版は、これらの目的を一度に達成するための方法です。自分の思考を言語化することで、事業が研ぎ澄まされていく。その結果、売上にもつながっていきます。
今回は、『従業員エンゲージメントを仕組み化する スキルマネジメント』の著者である中塚敏明氏と、本書の担当編集者である川辺秀美に、出版がビジネスにもたらす効果を聞きました。本書はAmazonの複数のカテゴリでランキング1位を獲得し、さまざまなメディアでも取り上げられています。
中塚氏の経営するスキルティ株式会社では、能力開発に特化したSaaSスキルマネジメントシステム「スキルティ」を開発しています。人に頼らず、システムによって人材教育と従業員エンゲージメントを高めることで、離職率の低下やモチベーションアップにつなげることができる。そうした概念を「スキルマネジメント」と表現し、書籍のタイトルにもなっています。この言葉は、書籍制作当初から決まっていたわけではなく、編集者との共同作業によって言語化されたのだといいます。書籍の制作プロセスと合わせて、「編集」の役割についても深掘りします。
※本記事は2024年1月16日にクロスメディア・マーケティングが開催したセミナー「戦略を言語化する編集力」の内容を元に文章化し、加筆・編集を行ったものです。
編集者と生み出した「スキルマネジメント」というタイトル
──企業経営の上ではさまざまな施策が考えられる中で、中塚さんはなぜ書籍出版をしようと考えられたのでしょうか。
中塚:私はITエンジニアの派遣会社を経営していて、創業から目標としていた、「社員100名」「従業員エンゲージメント業界No.1」を実現することができました。その軌跡やノウハウを棚卸ししたいという思いで、出版をしてみようと考えました。
──書籍のタイトルにもなっている「スキルマネジメント」とは、どういう意味でしょうか。
中塚:言葉の通り、「スキルを管理開発、評価するマネジメント手法」です。マネジメントについて、上司と部下といったように、人が人を管理するものだと考える方が多いと思います。われわれも、離職率低下を防ぐために人に頼ったマネジメントを推進していった経験があります。その結果、従業員エンゲージメントが非常に低下してしまいました。当時は「マネジメントの寄り添い疲れ」に陥ってしまったんです。これを解決するためには、人に頼るのではなく、スキルに着眼点を置くことが必要だと考えました。自己完結でマネジメントを推進していく仕組みとして考案したのが、「スキルマネジメントシステム」です。
──川辺さんは、編集者として「スキルマネジメント」という言葉にどんな印象を持たれましたか?
川辺:書籍の制作が始まったときから、「スキルマネジメント」と決まっていたわけではなく、中塚さんと一緒に考えた言葉なんです。当初は「人事評価制度」「目標管理」「心理的安全性」「従業員エンゲージメント」などいろいろなキーワードが挙がっていて、これらの考え方を包括するシステムについての書籍にしたい、というお話でした。
中塚:そうですね。最初の企画書のタイトルは、「小さな会社の心理的安全マネジメント(仮)」だったと思います。
川辺:タイトルが決まったのは、何回目かの取材をした後です。いろいろなキーワードをどう組み合わせようかと相談する中で、「スキル」という言葉が出てきました。最近は「リスキリング(職業能力や人材の再開発、再教育する取り組みのこと)」というテーマやタイトルの書籍はたくさんありましたが、「スキル」を強調した書籍は少なかったので、そこに焦点を当てるのはひとつの選択肢かなと思いました。
そこから考えたいくつかの候補の中のひとつが、「スキルマネジメント」です。書籍の中では、スキルについてだけではなく、ミッション・ビジョン・バリューや、人事評価システム、目標管理システムなど、コンテンツがてんこ盛りになっています。それらを内包する言葉を考えたときに、「マネジメント」が適切だと思いました。調べたところ、戦後、米国のIBM社がスキルマネジメントという考え方を導入していたらしいのですが、その言葉は定着していませんでした。使い古されている言葉ではないことがわかり、だったらそれを使おうと考えました。
中塚:スキルマネジメントという言葉を聞いて、直感的に「それでいこう」と思いました。タイトルに使われているほかの言葉には最後まで迷いましたが、メインとなる言葉は制作中盤くらいからはっきりしていましたね。
編集者との壁打ちで事業もまとまっていく
──中塚さんは、書籍制作のプロセスでどのようなことを感じられたでしょうか。
中塚:タイトルとしても内容としても、川辺さんに壁打ちしながら進めていくことができて、とても良かったと思います。やはり自分の考えていることやノウハウを言語化するのは難しいですよね。編集者の方に考えを伝えて、意見をいただく。それを繰り返す中で、あいまいだった思考が言葉としてまとまっていきました。
川辺:これまでさまざまな書籍を制作していますが、新規事業や商品開発と絡めて本を作りたいと考える方が多い印象です。中塚さんの会社では、「skillty」というシステムを開発されています。システムがどんどんバージョンアップしていくのと並行して、それらの元となった考え方が書籍のコンテンツに反映され、厚みが増していく。そのように、書籍制作を通してアイディアやノウハウがまとまっていくということも、出版のメリットだと思います。
中塚:そうですね。顧客へのアプローチ方法の質は向上しましたし、プロダクトに関するいろいろなヒントも得られたと思います。
──書籍の制作過程で、苦労した部分はありましたか?
中塚:本の中に詰め込みたい内容がたくさんあり、それらをまとめながら、不要な部分を削っていくことが本当に大変でした。それに、自分の見解の裏付けとなる学術的な理論を調べるため、書籍を読み込んでまとめていく作業も苦労しましたね。
これは川辺さんに申し訳ないのですが、いろいろと考えていく中で、また違うアイディアが出てきて、構成を変えたくなってしまうんです。「ここを変えたほうがいいんじゃないか」と提案して、「それはいいですね」「それはやめたほうがいい」と冷静に判断していただきました。
川辺:大変な部分もありましたが、内容を良くするためのブラッシュアップだったと捉えています。それに、変更があってもそのたびに中塚さんから資料をいただけたので、こちらも助かりました。やはり、本作りはお互いに負担し合えないと難しい部分があります。著者だけが頑張っても、編集だけが頑張っても、うまくいきません。例えば編集者は客観的な判断はできますが、逆に書籍のターゲットとなる中小企業経営者の抱えている課題がはっきりわかりません。その部分に関しては、中塚さんにうまくリーチしていただけました。
──編集者がどんな仕事をしているのか、イメージしづらい方もいると思います。川辺さんは編集者という職業について、どのように考えていらっしゃるでしょうか。
川辺:編集者の仕事は、著者が持っている能力や強みの一番コアな部分を引き出して、それを本という形に封じ込めることだと思っています。それができれば、動力が生まれて読者に伝わっていきます。今回のケースで言えば、中塚さんのパーソナリティや考え方、あるいは企業としてこれからどんなことをしていきたいかといったことを言語に集約していく作業でした。
──中塚さんとしては、編集者の役割をどのように感じましたか?
中塚:そうですね。川辺さんがおっしゃったように、やはり当人にしか書けないことがあって、それを初めて読んだ人でも理解できるようにしなければいけません。「ここはもっとかみ砕いた方がいい」「ここはもう少し詳しくしよう」と相談しながら、自分の考えを掘り下げていくことができたと思います。なかなかこういう作業は1人ではできませんよね。
出版によるビジネスへの効果
──書籍発売後の反響はいかがだったでしょうか。
中塚:本当に、想定以上の反響をいただいています。発売から順調な滑り出しで、すぐに増刷が決まりました。Amazonでも「人事・労務管理」や「ビジネスとIT」など、複数のカテゴリで1位を取ることができました。中でも、「中小企業経営」のカテゴリでベストセラーを取れたのは、本当に嬉しかったです。その層に向けて書こうという気持ちが強かったので。
Amazonのレビューも100件を超えています。「惜しみなく公開してくれて参考になった」「実体験が元になっていてすごく役に立った」という声をいただいているのも嬉しく思います。
それに、各メディアへの露出もしてもらえました。クロスメディアさんを通して「プレジデントオンライン」に記事を掲載していただき、それが「Yahoo!ニュース」にも取り上げられて、大きな反響がありました。ほかにも人事系のマネジメント雑誌への寄稿や、産経新聞のセミナーへの登壇、さらにそのセミナーの内容が記事として「ログミーBiz」に掲載され、人気ログの1位になりました。やはり書籍にはすごいPR効果があるんだなと肌で感じました。
──問い合わせや受注の増加など、ビジネスへの影響はありましたか?
中塚:はい。とてもありがたいことに、直接的な結果にもつながっています。ただ、出版に当たって、スキルマネジメントシステムの販売につなげたい、認知度を向上させたいという思いはありましたが、あまり宣伝色は出したくありませんでした。一方で、より読者の方の役に立つよう、QRコードを掲載して読者特典をダウンロードできるようにしていたのですが、結果的にここから多くのリードが集まっています。
──川辺さん、書籍出版ではこういった効果も併せて考えるのが一般的なのでしょうか。
川辺:もちろん、効果について期待はしています。ただ、その期待を超えて広がっていくには、やはり書籍制作への真摯な取り組みが重要です。今回も、結果的にたくさんの反響がありましたが、制作するうえではそうしたことを一切考えていませんでした。著者の方の事業や商品をPRすることはもちろん目的のひとつですが、それよりも重要なのは、「想定読者が必要とする情報とは何か?」へのフォーカスです。本書を読んだ人が何を受け取れるかを考えた先に、結果があるんです。とはいえ「言うは易く行うは難し」でもあります。全てがうまくいくわけではありませんが、要所をきちんと押さえて制作を進めていけば、中塚さんのように出版の影響を感じられると思います。
──本日はお話を聞かせていただきありがとうございます。最後にセミナーの参加者の皆さまへ、メッセージをお願いいたします。
中塚:出版は、自分が持つノウハウを棚卸しして“見える化”する、それに新たなアイディアを創出するプロセスだと思います。考えがまとまっていない状態でも、編集者の方が最強の壁打ち相手になってくれます。書籍制作のプロセスの中で、自分の考えが明確になっていきます。
私の場合、書籍制作を進める過程で、セミナーやクライアントへの提案書の質がどんどん上がっていきました。それが受注にもつながっています。それに自社の経営方針やパーパス、ビジョンの質も大きく高まり、事業が研ぎ澄まされていった感覚があります。
世の中に知らせたいノウハウやプロダクトを持っている人は、ぜひ書籍化にチャレンジしてほしいと思います。その内容を知りたい人は、世の中にたくさんいるはずです。
川辺:本作りで一番大事なのは、著者の方の意思やビジョンです。そうした想いを持っている方が出版すれば、事業にも大きな好影響をもたらすはずです。書籍というと、印税をもらって儲けるといったイメージがあるかと思いますが、新しい活用方法として、ビジネスを飛躍させるためのひとつのプロジェクト(プロセス・マネジメント)として考えていたただくのがいいのかなと思います。
※本記事は2024年1月16日にクロスメディア・マーケティングが開催したセミナー「戦略を言語化する編集力」の内容を元に文章化し、加筆・編集を行ったものです。