- カテゴリ
- タグ
経営理念・哲学を浸透させる出版の活用方法
お客様や従業員に「選ばれる」会社であるために、経営哲学や経営理念は非常に重要です。しかし、存在はするものの、実際にはうまく伝わっていないこともあります。経営理念や経営哲学を社内外に浸透させるために大切なこととはなんでしょう?今回は、理念浸透のステップや、そこで活用できる出版術について、弊社執行役員の中山に聞きました。
理念を浸透させるストーリー
──まず、経営理念の重要性について、改めて伺えますか?
経営理念とは、「何のために経営するのか」を示すものであり、企業の本質的な判断基準になります。今だと、理念と同様に「パーパス」という言葉も浸透していますよね。自社の存在意義を明確化して、社会にどのように貢献したいのかの意志を示す宣言です。
これらがないと、判断基準が曖昧になってしまいますし、方向性を見失ったり、社員が使命感ややりがいを喪失してしまうという問題が生じてしまい、社員のエンゲージメントも低下してしまいます。経営理念をしっかりと掲げることで、会社としての軸を持ち、社員の不信感やモチベーションの低下を招かないようにする必要があるのです。
──なぜ経営理念は浸透していかないのでしょうか。
社員の「自分ごと」になっていない状況が多いと思います。経営理念を額縁に入れて飾っているけれど、社員があまり意識しておらず、理念を覚えていないなど。経営理念から発する行動がができていないので、「自分ごと」化されていないのです。忙しくて日々の仕事でいっぱいいっぱいで、理念が置き去り去されてしまうこともあります。そんな課題を抱えている会社も多いのではないでしょうか。理念を掲げるだけなく、社員の方々が腹落ちできるようにする取り組みをしていく必要があると考えています。
──どのような取り組みが必要でしょうか。
理念浸透のステップが必要だと考えています。認知、理解、共感、実践の4つです。
このうち、認知とは、経営理念が策定された想いや背景など、理念に込めた想いが、従業員の方々に伝わった状態になること。理解とは、社員一人一人が自分の業務と経営理念の繋がりを意識して、「この仕事っていいな」と想えること。さらに、一人ひとりが自信を持って経営理念に沿った行動をとり、チーム一丸となって取り組める状態が、共感だと定義して、この認知、理解、共感のステップを実現していくためには、ストーリーが重要だと考えています。
弊社で出版している『仕事はストーリーで動かそう』という書籍があります。ここには、
ストーリーには感情を動かす力があります。相手の感情を動かすことであなたの仕事は変わります。あなたの商品、あなたの会社、あなた自身に人々の感情を動かすストーリーがありますか
『仕事はストーリーで動かそう』川上徹也著/クロスメディア・パブリッシング
と書かれています。ストーリーがあることで、従業員の方々の感情が動き、同じ方向を向いて進んでいけるのです。
加えて、企業にとってのストーリーは、カルピスの原液のようなものです。放送作家の秋元康先生が著書の中で、「良いコンテンツとは、カルピスの原液のようなものである」と述べています。カルピスは水で割ってカルピスウォーターにしてもおいしいですし、ソーダで割ってカルピスソーダにしていいしも、果汁と混ぜて風味を追加してもおいしいですよね。このように企業における核となるストーリーを掲げることによって、企業のさまざまな活動がそのストーリーに基づいた、経営理念を反映させたものになるのです。
会社と読者とをつなぐ、書籍の利点
──理念を浸透させるためには、ストーリーを伝えていくことが重要なのですね。
そうですね。特に、企業において理念を浸透させていく際には、書籍が効果的だと考えています。PR専門家である本田 哲也氏の『ナラティブカンパニー』という著書の中に、「ストーリーは企業やブランドが主役であるのに対し、ナラティブは生活者が主人公」という話が出てきます。書籍は、ストーリーをナラティブにして伝える力のあるツールだと私は考えています。つまり、企業と、読者である従業員の心を繋ぐことができるのです。
弊社代表もこんな言葉を使っています。
「書籍、それは誰かの人生が変わるきっかけにもなる。誰かが前に進む勇気を与えたりする。誰かの心を癒してくれたりもする。誰かの気持ちを整えてくれたりする。それは気づきや発見や出会いが生まれることだ」
また、実際に、企業が書籍を活用している事例もあります。例えば、ユニクロの柳井社長が出版した『経営者になるためのノート』。「幹部社員が使う門外不出のノート」というキャッチコピーで、非常に話題になりました。元々は、ユニクロの全店長に配布していたものだったそうです。経営哲学や理念を伝えるために、書籍を活用していた事例ですね。
本当は世の中にでない書籍だったと思いますが、社内だけではなく、多くの人に読んでもらうべきという編集者の想いがきっかけで出版されたのではないかと思っています。
ナラティブについて詳しい記事はこちら↓
『ナラティブとは?意味やビジネスにおけるストーリーとの違いを解説!』
理念浸透のツールとしての出版
──経営哲学や理念を伝える際、出版はどのように活用できますか。
いくつか、弊社で出版した書籍の事例をお伝えします。
『そこまでやるかを、つぎつぎと。』
最初にご紹介するのは、包装機業界のリーディングカンパニーさんの『そこまでやるかを、つぎつぎと。』という本です。スローガンとして掲げていた「そこまでやるかを、つぎつぎと」という言葉を、そのままタイトルに使わせていただきました。創業からの歴史や代表の思い、会社の未来や社員の成長への考え方などを、しっかり盛り込んでいます。
さらに、通常の周年史や理念ブックとは趣向を変えて、著名人と社長との対談を盛り込むことで、社員の方の共感を得やすいよう工夫しています。建築家の隈研吾さんと「ものづくり」をテーマに語ったり、世界靴磨き大会のチャンピオンである長谷川 裕也さんと「極める」とはどういうことなのか深掘りしたり。理念の浸透を社内に止めるだけでなく、お客様にも知ってもらおうという形で一般にも販売しています。
『社会人1年目の教科書』
次にご紹介するのは『社会人1年目の教科書』という書籍を出版した不動産業の会社の事例です。「これが理念浸透の本なの?」と思われるかもしれませんが、代表が考える社員のあり方を伝えた本です。代表と同じ感覚を持って一緒に働いてほしいという視点から、入社した人に読んでもらう「社会人たるものは」を知るためのハンドブックとして作らせていただきました。
内容が社会人になった人がベンチャーマインドを身につけてもらうことができる素晴らしい内容だったので、社内だけでなく一般にも流通しました。毎年春先に書店に展開されるロングセラーの本になりました。。「うちの若い子たちにも読んで勉強してもらいたい」と他の会社さんにも研修用の教材として使われるなど、非常に好評でした。この本には代表が独立し、若くして会社を大きくしてきたストーリーが盛り込まれています。20代の頃のお話など非常に共感しやすく、会社のメンバーから「代表と同じ方向を向いて頑張れている」という言葉をいただきました。
『経験に学ぶな』
この本は、弁護士事務所の事例です。弁護士というと、何か起きた時、どうしようもなくなってから頼るケースが多いのですが、この弁護士事務所さんは「事件になる前に弁護士に相談してほしい」という強い思いをお持ちでした。そのため「かかりつけ医」のように、予防のために相談できる「パーソナルロイヤー」という考え方を提唱しています。この考え方を社内に浸透させて同じ方向を向き、世の中にサービスとして展開したいという思いでこの本を制作しました。
『麺屋武蔵 五輪書』
こちらは、有名ラーメン店が出した『麺屋武蔵 五輪書』です。企業の理念から、接客のノウハウなどの行動指針を「五輪書」という形でまとめました。ノウハウは本来、あまり公開したくない企業が多いと思います。しかし、この会社は、世の中のラーメン屋さんにより良くなってほしいという想いで一般に流通させ、話題になりました。社員のロイヤリティを高めることに貢献し、教育・研修用のツールとしても活用されているそうです。
『サスティナブル・ライフ』
『サステイナブル・ライフ』は、健康食品を販売している会社が、「なぜ健康食品を始めたのか」をまとめた本です。代表の人生ストーリーを通して、アフリカで感じたサステイナブルな生活を日本の方にも伝えたいという思いが書かれています。
『四畳半から東証一部上場へ』
こちらの『四畳半から東証一部上場へ』という本は企業の社長交代のタイミングで制作されました。初代創業者から二代目に代表が変わる際に、創業からの思いをしっかり紡ぎ、二代目が今後どう進んでいくのかを示すために出版されました。タイトルがかなりキャッチーだったので新聞の書評にも取り上げられ、理念浸透だけでなくアウターブランディングにも繋がった一冊です。
『人と夢を技術でつなぐ建設コンサルタント』
最後にもう1冊ご紹介します、こちらの『人と夢を技術でつなぐ建設コンサルタント』は建設コンサルタント会社の本です。採用ブランディングのためにつくった本で、土木を勉強した人以外にも自社に来てほしいという想いを込めて「建設コンサルタントがどんなことをしているのか」を漫画やイラストも交えてわかりやすくまとめています。結果として、ステークホルダーの方々にも「建設コンサルタントが持続可能な社会づくりで活躍している」ことを知ってもらうために役立ち、理念浸透のためにも良いツールになっていると思います。
──さまざまな企業で、本が理念浸透のためのツールとして役立っているのですね。
そうですね。こういった出版は企業出版という名前で呼ばれることが多いです。自費出版だとほとんど市場には流通しませんが、企業出版ですと流通も可能です。もちろん社内だけにとどめても構いません。しかし流通させる場合には、会社を知ってもらう対外的なブランディングにも役立ちます。社内外どちらのブランディングに活用できる便利なツールとして使っていただいています。