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<イベントレポート>iPhoneもディズニーランドも、編集力から生まれた。 編集力は、ビジネスに、そして社会に、どのような価値を生み出すのか?【後編】

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投稿日:2023年3月16日 | 最終更新日:2024年1月19日

2022年12月14日に開催されたオンラインイベント:仕事の研究室「編集力は、ビジネスに、そして社会に、どのような価値を生み出すのか?」

クロスメディア・パブリッシング代表取締役の小早川幸一郎氏は、編集を4つのフェーズに区切り、「編集4.0」として定義しました。それに対し、中央大学名誉教授の田中洋氏からは、「スティーブ・ジョブズやウォルト・ディズニーも編集者と言えるのではないか」というお話も飛び出しました。

【前編はこちら】

編集者とは何者なのか。そして、編集力はどんな価値を生み出すのか?お二人の対談の後編をお伝えします。

<プロフィール>

田中洋氏 中央大学名誉教授
1951年名古屋市生まれ。京都大学博士(経済学)。株式会社電通マーケティング・ディレクター、法政大学経営学部教授、コロンビア大学大学院ビジネススクール客員研究員、中央大学ビジネススクール教授などを経て2022年から現職。日本マーケティング学会会長、日本消費者行動研究学会会長を歴任。フランス国立ポンゼショセ工科大学ビジネススクール、東北大学、名古屋大学、慶應義塾大学、早稲田大学などで講師。経済産業省・内閣府・特許庁などで委員会座長・委員を務める。消費者行動論・マーケティング戦略論・ブランド戦略論・広告論を専攻。多くの企業でマーケティングやブランドに関する戦略アドバイザー・研修講師を務める。主著『ブランド戦略論』(2017年、有斐閣)を始めとして多くの著書・論文がある。日本マーケティング学会マーケティング本大賞/準大賞/優秀論文賞、日本広告学会賞、中央大学学術研究奨励賞、白川忍賞などを受賞。

小早川幸一郎氏 クロスメディアグループ 代表取締役
クロスメディアグループ(株)代表取締役 出版社でのビジネス書編集者を経て、2005年に(株)クロスメディア・パブリッシングを設立。以後、編集力を武器に「メディアを通じて人と企業の成長に寄与する」というビジョンのもと、クロスメディアグループ(株)を設立。出版事業、マーケティング支援事業、アクティブヘルス事業を展開中。

編集者に必要なセンス=「選ぶ力」

田中:これまで編集の定義を考えたり、事例を見たりしてきました。編集には1から4までフェーズがあり、社会に対して積極的に活用することができるというお話でした。それを踏まえて小早川さんに、良い編集者になるためにはどうすれば良いのかお聞きしたいです。

小早川:ヒットを出している編集者は時代時代にいますが、著者と一緒で一過性の方もいます。一方、継続して良いものを作り、ヒットを出し続けられる方もいる。そういう編集者に共通するのはやはり、センスがあることですかね。

センスのあるなしは遺伝子レベルで変えられないという説もありますが、僕の中ではそうじゃないと思っています。僕のセンスの定義は、「選ぶ力」なんですよね。「着ている服がセンスいいよね」「付き合ってる人センスいいよね」「入った会社センスあるよね」などと言いますが、ここで言われるセンスは、ゼロから作り出すのではなく、いくつかある中から選ぶ力のことです。その力はスキルですから、向上させられると思います。

選ぶためには何が重要かと言ったら、経験やインプットの量ですよね。多くのインプットをしている人は、引き出しがたくさんあり、より多くの選択肢の中から選ぶことができます。それが良い編集者なんじゃないかなと思いますね。

田中:できるだけたくさん情報を収集して、自分の中で消化するということでしょうか。

小早川:そうですね。その中から何を選んで組み合わせてアウトプットするかです。特にコンテンツの話でいうと、最近は異種格闘技になってるんですよね。これまでは、ビジネス書の編集者はビジネスのことを考えていれば、文芸誌の編集者は文芸のことを考えていればよかったですが、今はそうではなくなりました。ビジネスも文芸も境界線がなくなり、越境していますよね。だからこそより選ぶ力が重要になっていると感じます。

膨大なインプットからより良い選択が生まれる

小早川:そういえば私は20代の頃、年をとったらアイデアが出なくなって、枯れてしまうのではないかと言う不安がありました。でも今、47歳になってもどんどんアイデアが出るんですよ。最近、先ほど話に出たCCCの増田さんと定期的にお会いして打ち合わせをさせていただいているのですが、増田さんはもっとすごいです。70歳を超えていますが、会議中ホワイトボードにどんどんアイデアを書いていくんですよね。これが編集力なんじゃないか、と思っています。経験がデータとしてインプットされ蓄積されているので、新しい組み合わせの選択肢が多いのです。それが若い人に太刀打ちできないようなアウトプットを生み出しているんだなと思いました。

田中:そうですね。若い人の方がフレッシュなアイデアが出て良いと言われることもありますが、すでにわかってること、ありふれていることも多い。新結合が生まれやすいのは、年を重ねてある程度知識がたまった時なのかもしれません。

研究の分野では、一見何もないところからつくっているように見えても、実際には過去の蓄積の上に何かを付け加えていることがほとんどです。全く何にもないところからつくるっているのはほぼありえないんですよね。これまでに人類が積み上げてきた知の体系があるわけですから、それを踏まえた上で何を付け加えるかが重要。これはビジネスでも同じですよね。だから、選択肢が増えるまでインプットを増やすのは重要じゃないかと感じます。

組み合わせのセンスが光る『もしドラ』

田中:今のお話で、note株式会社代表の加藤貞顕さんのことを思い出しました。加藤さんがダイヤモンド社の編集者だった時に、インタビューしたことがあるんです。「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」、通称「もしドラ」が大ヒットした頃です。ドラッカーが書いた本を女子高生が応用したら、甲子園に出場できるようになったというお話ですね。

面白かったのが、加藤さんがもしドラの原型になる小説を見つけてきたときのことです。今から十数年前、加藤さんはいろいろなブログを見てネットの空気感を掴むようにしていたそうで。わざと変なことを言って読者を挑発するような面白い書き手が揃っているところに目をつけて、情報を漁っていたそうです。するとあるブログで、「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーのマネジメントを読んだら」という長いタイトルの、まだ小説の形になっていない概要のような記事を見つけたというのです。

普通、ドラッカーと女子高生の組み合わせは奇妙だし、オタクっぽいなと思う人もいますよね。加藤さんのすごいところは、「これはものになる」とピンときたところです。早速、ダイヤモンド社のドラッカー専門の編集者にブログを見せに行ったそうです。その編集者から、「この著者はドラッカーのことをよくわかっているから、すぐアプローチをした方が良い」とお墨付きをもらいました。加藤さんはすぐ著者に連絡して会って、小説を仕上げて出版したそうです。それが最終的には300万部を超える、ダイヤモンド社始まって以来の大ヒットになりました。そのあと、独立してnoteを創業されたんですけれども。小早川さんから見て、加藤さんも立派な編集者ということになりますか。

小早川:加藤さんは編集仲間で年も近くて、編集の価値に気づいて同じ時期に独立した二人なんですよね。もしドラもまさにセンスがなせる技で、数多あるウェブ上のコンテンツの中から、これを選ぶのはセンスがいいってことですよね。このセンスは、当時誰も理解できなかったんですよ。僕も全く理解できなくて、「こんな本作ったんだけど」と飲み会で渡されて、「随分変な本作ったね」なんて言って(笑)。こんなに売れるとは思わなかったですよね。

編集者に不可欠な企画力+制作力

田中:センスもありますが、加藤さんはそれ以外にも計算された部分があったみたいですね。例えば「もしドラ」の表紙はアニメみたいなイラストですが、アニメ好きに寄せると行きすぎちゃうので少しセーブして作っているそうです。他にも、店頭に並べるとどう見えるか、著者と一緒に書店に行って、試作した表紙を並べてみたとおっしゃっていました。テストマーケティングもなさっていて、面白いなと聞いていました。

小早川:私の編集の定義は、「企画と制作」です。だから例えば、もしドラという面白いものを見つけて、「本にしたらいいよね」と言うだけだったらただ単にアイデアなんです。アイデアを実現するのが企画、その企画を作り込んで目に見えるものにするのが制作です。だから加藤さんの選ぶセンスに加えて、デザインや文章にこだわった制作があっての編集だと感じます。

田中:なるほど、企画と制作はくっついていないとダメなんですね。

小早川:制作がないとプロデューサー、制作だけだとクリエイターですよね。セットで行うのが編集者だと僕は考えています。

田中:先ほど話に出たスティーブ・ジョブズも、制作にもこだわりを持っていましたね。

1979年にアップルを立ち上げたジョブズたちが、コンピュータ技術の研究で有名なゼロックス社のパロアルト研究所を訪問した時の話です。ジョブズたちがコンピュータのデモンストレーションで、とある要望を出したところ、それを研究員たちがすぐにやってのけたので大いに驚いたそうです。パロアルトでは、メールシステムなど、今の我々のインターネット社会の基礎を作ったと言っても過言ではない画期的なシステムをいくつも生み出していました。

その中で、特にジョブズが驚いたのはGUI(Graphical User Interface)。パソコン画面のアイコンをクリックすると開いて作業できるなど、コンピュータへ出す命令や指示を、ユーザーが画面上で視覚的に捉えて行えるようにする、今日われわれが当たり前に使っているシステムです。ジョブズは「この会社はなぜGUIを発売しないんだ、信じられない」「理性のある人なら、全てのコンピューターがやがてこうなることがわかるはずだ」と言ったと伝えられています。ジョブズはこの見学のあと、パロアルトの研究員たちをアップル社に引き抜いて、マッキントッシュを作ったのです。当時、パロアルト研究所を見学した人たちは何百人、あるいはそれ以上いたはずです。本当に驚かされることは何かと言いますと、研究所を運営していたゼロックス社自身も含めて、ジョブズ以外にこうした発見と実行をなした人は誰もいなかったことです。

加藤さんと同じように、多くの情報の中から「これはすごい」と言うものを見つける力と、それらの要素をうまく束ねてお客さんに提示する力、企画と制作の力を優秀な編集者は両方持ち合わせていると感じます。

小早川:そうですね。ジョブズもウォルト・ディズニーも、企画するだけではなく実際に制作していますよね。選ぶセンスも、作り込む力も重要です。企画と制作、両方の力を持ち合わせることは、編集者にとって大切な要素だと考えています。


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