ストーリーマーケティング

採用マーケティングとは?婚約・結婚のエンゲージメントと同じ?

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投稿日:2022年12月5日 | 最終更新日:2024年1月19日

マーケティングは時に恋愛や婚約に例えられます。それは相手と出会い、理解を深め、好意を醸成し、遂に結ばれるというプロセスとそれを上手くやるための企みがマーケティングに似ているためです。

そして採用のプロセスも婚約も今日しばしば耳にするエンゲージメントマーケティングそのものと言えます。エンゲージリングのエンゲージは「絆」や「関係性」という意味を持ち、まさに学生や転職希望者との絆を築き上げていくエンゲージメントマーケティングを企画実行するに当たって婚約のプロセスは大いに参考になります。

採用マーケティングと婚約・結婚の関係性

採用マーケティングとは、採用活動にマーケティングの手法や考え方を取り入れることを指します。

顧客を獲得するマーケティングだけでなく、新卒・転職者を獲得する採用業務にマーケティングの手法を使うのは珍しくありません。

その採用マーケティングと婚約・結婚を結び付けるのは唐突だと思うかもしれません。

しかし、これは唐突ではありません。

一人の人と出会い、段階的に理解を深めていくことで、好意を抱くようになり、意を決してプロポーズ。そして、プロポーズを受け入れてもらった後、さまざまな迷いが発生することはありつつ、最終的には迷いも振り切り結婚に至る・・・という結婚までのプロセスは採用マーケティングに酷似しているのです。

出会いから段階的に理解を深め、温度感の高まりに合わせて商談・契約を獲得するといった比較的長いプロセスを取るマーケティングを「エンゲージメントマーケティング」といいます。

採用マーケティングはこのエンゲージメントマーケティングに含まれます。

エンゲージメントは「絆」や「関係性」という意味をもち、エンゲージリングのエンゲージと同じなのです。

値段の高い商品やBtoB商材のように、時間をかけてじっくり検討し、購入を決めていく商品・サービスのマーケティングの多くはこのエンゲージメントマーケティングを行っています。店頭で衝動買いする商品のマーケティングとは真逆のものです。

人生のパートナーとなる結婚相手を探すのも、仕事のパートナーとなる会社を探すのも、相当な時間をかけ、慎重に検討するものですので必然的に同じようなプロセスとなるのです。

採用マーケティングのKPI

エントリーシートの獲得数

マーケティングである以上KPIは必要です。

採用マーケティングのKPIで最も大事なのはエントリーシート獲得数です。

何人の求職者が「弊社に入社してみたい」と思わせたかという指標になるため、当然多いにこしたことはありません。

人材は「量」よりも「質」が重要なのでは、と思うかもしれません。

しかし人材において「質」は、なかなかKPI化が難しいのが現実です。そのため多くの企業はエントリーシート提出者数をKPIに据えています。多くの応募があればその分、企業側としては自社に合った人材の選出が可能になるため、結果として「質」は担保されると考えることが多いのです。

「質」の良さは応募者数の「量」で代替されるという考えです。

これは最重要KPIなので、企業はあらゆる手段を使って入社希望者との出会いの最大化を図ります。

以前はテレビ広告を使って大々的に宣伝といった手段を取った企業もありましたが、今はやはりデジタルが主流です。主力メディアはやはり自社ウェブサイトですが、集客力不足を補うためにリクルートサイトを併用する企業が多いでしょう。

これらの取り組みで何とか入社希望者のメ―ルアドレスなどの個人情報を獲得し、コミュニケーションを開始します。

内定辞退数

採用マーケティングの二番目のKPIは内定辞退数の最小化です。

お金と手間暇かけて何とか内定者数を確保出来たとしても、その後辞退されてしまっては元も子もありません。しかし、余程の人気企業でない限り、内定辞退者は相当数出るのが普通です。

この人数を最小化するのは人事担当者にとって胃が痛くなる重たい仕事です。

普通のマーケティングでも「新規顧客獲得コスト」は「既存顧客維持コスト」の5〜6倍かかります。高いコストを払って獲得した新規顧客は何としてでも辞めさせずに継続してもらわなければ企業経営にとって大きなダメージとなります。

CRMの世界でも最初の大関門は初期離脱阻止です。「離脱率〇〇%以下死守!」が必須課題になるのです。

これは結婚・婚約においても同じかと思います。婚約したから後は安心ともいえないでしょう。相手にとっても、自分の人生に大きな影響を与える選択をしたのだから迷いは必ず発生します。「この人と結婚して本当に良いのだろか?」と。

この迷いを熱い気持ちで打ち消し、めでたくゴールイン(入社)に導くのが内定辞退阻止マーケティングです。

採用マーケティングのカスタマージャーニー

内定まで

このカスタマージャーニーの図は就活開始の応募者の心理から、徐々に気持ちが温まり、面接から内定へ至る過程とその段階ごとにとるであろう応募者の行動をそれぞれ書き出したものです。

応募者はこの過程で多くの企業と比較して自分に合った企業を探します。自社を選んでもらうためにも、この段階ごとに自社ウェブサイトのコンテンツ充実や説明会の実施、メルマガの配信など、企業側もさまざまな取り組みが必要になります。

応募者は社長の言葉やビジョン、企業理念などをよく見ています。それは、この会社に入れば自分の夢・目的・目標を追いかけることができるのか、自分が将来的に目指す方向性に齟齬がないかを気にしているのです。

このように、求職者はビジョンと共に企業の「人となり」を見ています。結婚相手を選ぶ時と同じように、ずっとパートナーとして一緒に人生を共に出来る相手なのか、私と上手くやっていける人柄なのかは重要ですよね。だから企業としての実力や実績だけでなく社員はどんな人達で、何を夢見てどんな毎日を過ごしているのか、会社生活の喜怒哀楽はどのようなものなのか、リアリティーをもって伝えましょう。

企業のビジョンやさまざまなストーリーを発信・提供を積極的に行うことで、応募者はこの会社に入社したらどんな未来を描けるのか、入社することによって共に実現するストーリーを思い描くのです。

そのためにも、自社コンテンツの充実やメルマガでの発信は重要なのです。

入社まで

企業が内定を出しても、応募者にとって自社が第一希望でない場合や、別企業から内定が出ているということは多く、応募者は「本当に自分はこの企業に入社していいのか」と迷うでしょう。

この企業は自分を歓迎してくれるに違いない、この企業で仕事をしてみたいという気持ちを高め、迷いを無くし自社を選んでもらうためにも、企業側は内定者を放置するのではなく、メルマガの発信などコミュニケーションをとることを怠ってはいけません。

実際に応募者が就活開始から内定、入社に至るにはこのような心理・行動の過程があることを理解し、その段階ごとに行う取り組みやコンテンツを考えておくと良いでしょう。

エントリーシート獲得数最大化の有力な手法

魅力的なウェブサイトや説明会を準備したり、広告を行うことも勿論大事ですが、意外と理解されていないのがメルマガやLINEなどでのコミュニケーションです。

普通、企業からのメールは無視されることが多いのですが(仕事のメール除く)、就活生にとって就職する会社を決めることは人生の一大事ですので、企業からのメールも例外的にしっかりと見て確認します。

メルマガ登録(LINE登録でも可)で獲得した応募希望者の個人情報を最大限有効活用しましょう。

登録時に簡単なアンケートも取れるので、応募希望者の関心事もわかります。他社より先んじて個人情報を獲得すればそれだけチャンスも大きくなるのです。

メールを事務的連絡だけでなく、親身に心を込めてコミュニケーションを行えば「この会社は社員ひとりひとりのことをちゃんと考えてくれる会社なのだな」「この会社って私のこと大切にしてくれそう。親近感が沸いた」と思ってもらうことができます。事務的でそっけない内容だけの発信では「この会社、事務的で冷たい感じ。ひょっとすると社員なんて取り換え可能な部品としか思ってないのでは」「この会社って私のこと大切にしてくれないかもしれない。入社して後悔するかも」と不安になってしまう危険があり、エントリーシート数にも影響与えるでしょう。

人事担当者だけでなく、社員も参加して親身にコミュニケーションを行い、ウェルカムな気持ちをさまざまな社員の肉声で熱く伝えましょう。

中にはエントリーシートの書き方がわからないで困っている人もいるかもしれません。そんな相手に対して「エントリーシートの上手な書き方」といった実用的なメールを送るのも喜ばれるでしょう。

オンラインコミュニケーションの重要性

企業が入社希望者に一方的に情報提供するだけでなく、時には対話する場が持てれば大変効果的です。「若手社員と話す会」など、ちょっと上の先輩社員と話すことは会社の理解という意味でも、会社への親近感・好感という意味でも大変良い企画でしょう。

しかし実施したくても、社員に負荷がかかる企画であるため、そうそう沢山できるものではありません。

特にコロナ下においてはリアルに対面して社員と話すことは容易ではありません。

では、リモートによる対話の場として若手社員と入社希望者のリモート座談会はどうでしょう。

ある会社で学生と社員のzoom座談会をやったところ大変好評だったそうです。

座談会のタイミングで都合がつく社員がデスクで参加すれば良いので、社員の負荷もあまりかかりません。

社会人になる時、若い人は不安が一杯ですし、「私のこと分かってもらえないのじゃないか」「私なんかの話に耳を傾けてくれないのはないか」という心理に陥っていることが多いので、親身に話を聞いてあげると大変喜ばれるのです。このような取り組みを積極的に行う事できっと自社を好きになってくれるでしょう。

内定辞退者最小化のための手法

内定を出した後、他社に気移りさせないために必要以上に拘束するのはどうでしょうか。

長すぎる研修や、時に海外旅行に連れていく(さすがに今日はないでしょうが)といった方法でとにかく内定者を自社に拘束する方法がありますが、これはいかがなものでしょう。

このような拘束は企業のエゴでしかありません。

内定者自身が「入社したい」という気持ちになるよう努力するのが本筋でしょう。

内定から入社までは、理性的選択は既に終わっている可能性が高いので、情緒的なアプローチが大切です。「入社したい気持ちがどんどん強くなってきた。楽しみだ」と思ってもらえるよう暖かい気持ちでウェルカム・コミュニケーションをしましょう。

「入ってみてわかった仕事の意外なワクワク感」「仕事以外でも楽しい同僚との付き合い」といった社員のリアルな話の発信や、社員以外の人の声を集めるのもひとつの手です。

「社員食堂の名物おばちゃんが語る自社社員の変わったところ」「正門前コンビニの店長が語る自社社員の個性的な買い物」「よく使われる居酒屋店長の記憶に残るありえない社員達の逸話」などでも良いのです。

自社で仕事をするリアリティーを感じてもらうためにも、「もう君と僕たちは仲間なんだよ」「会社生活の喜怒哀楽を共にわかち合う仲間に早くなろうよ」と気持ちを込めて語るのです。

婚約から結婚の過程においても、婚約者の迷いをふっきるには理屈ではなく熱いハートで情熱的に好意を伝えるしかありません。

「きっと私と結婚して幸せになれるよ」「絶対幸せにしてみせる」といい続けるのです。

出来るだけ1to1で

人は他の大勢の人と一律に一纏めにした対応をされると「私や社員ひとりひとりのことなんか大切に思ってないんだ」と思ってしまいがちです。

逆にひとりひとりの関心事や個性を知ろうとして、少しでもそれに合わせた対応をしてくれると

「それぞれの違いを考慮して丁寧に対応してくれるって嬉しい」「社員を大切にする会社なのでは」と思います。

メール配信においても、アンケートで希望職種を聞いて、希望職種によって異なるコンテンツを配信したり、説明会参加申し込みやエントリーシート提出を早々に済ませた人と、まだ済ませてない人によって異なるコンテンツ(「締め切りは3日後ですよ。忘れてないですか?書き方が難しければウェブサイトの〇〇ページを是非参考にしてみて下さい」など)

を配信します。

また、ウェブサイトでどうしても見て欲しいページをまだ見てない人だけそのページ閲覧を誘導するメール配信や、内定者だけど内定後ウェブサイトもメールも何も見ず音沙汰なくなってしまった内定者だけに近況伺いメールを配信し、その結果次第では人事から直接メールか電話をするなどさまざまな方法で個人に寄り添うことができます。

一斉メール配信に終始せず、マーケティングオートメーションなどのツールを使えば上記のような1to1対応は簡単にできます。実際、マーケティングオートメーションに火が付いた最初の業界のひとつはHR業界(人材支援サービス業界)です。

エンゲージメントマーケティングと採用マーケティングは相性が良いのです。

最後に

採用という仕事は企業と人(社員)が出会い、理解と好感を深め、生涯パートナーを選ぶ仕事です。

それは、婚約・結婚で生涯のパートナーを選ぶのと同じくらい大切な出来事です。

余程の人気企業で「採用してやる」という上から目線の姿勢がまかり通る企業は別ですが、

多くの企業は「企業が応募者から社員を選ぶ」と同じくらい「応募者が企業を選ぶ」、すなわち「相思相愛」であることが求められます。

採用面接では「ウチの会社に来たいという気持ちがどれだけ本気か教えて下さい」と応募者に質問することが良くありますが、企業からも「私はあなたのことを深く理解したい。あなたのことを大切にしたい」「あなたと長く良き時を共に過ごしたい」という気持ちを熱く訴えることが必要です。

ビジネスと同じで、勝負の最後は「気持ち」「情熱」なのです。

応募者が自社を選び、最後まで気持ちが離れていかないためにも、企業側はビジョンや自社ストーリーの充実とその発信・提供、そして入社後の未来が思い描けるようなコンテンツの発信など、さまざまな取り組みやコミュニケーションを行う事が大切なのです。

採用マーケティングを行い、自社が歩んでいきたいストーリーに共感し、共に歩んでくれるような人材を獲得しましょう。

【監修プロフィール】

東京大学文学部仏文科卒業後、電通に入社。
本社マーケティング・ソリューション局次長、電通イーマーケティングワン(現電通デジタル)専務取締役経て小川事務所を設立。
著書に『マーケティングオートメーションに落とせるカスタマージャーニーの書き方』『マーケティングオートメーションでおもてなし~ITがマーケティングにしてくれること』『戦略から始めるエンゲージメントマーケティング』(クロスメディア・マーケティング)


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