小売・メーカー・ECで今まさに起きているイノベーションを伝えつつ、
「およそ5年後の近未来」を予測することが本書のテーマだ。
具体的には、「デジタルシェルフ」というキーワードを通して、
これまでの消費の変遷やこれからのトレンドを、やさしくお伝えしたい。
とはいえ、学生・主婦・新社会人といった方にもお読みいただけるよう、
内容としては、できる限り難しい話を避け、わかりやすさを重視した。
いわゆるマーケッターではない、すべてのビジネスパーソンの方々に読んでいただきたいからだ。
▼「デジタルの棚」を握る者が次の時代をリードする
皆さんは、ITの発展によって、いま「買い物」をめぐる動きや勢力地図が大きく変わっていることに
お気づきだろうか。たとえば、ウェブはスマホにシフトし、5G(第5世代通信技術)や
DtoC(Direct to Consumer)といった新しい技術や考え方が本格化。AI技術のさらなる進展や
Amazonの動向も気になるところだが、一方でリアル店舗の数は確実に減少を始めている。
戦前から現在の約100年間という時間軸でショッピング史を見ていくと、それは「棚の奪い合い」を
続けてきた歴史だった。その「棚の奪い合い」の舞台は、インターネットの誕生から四半世紀を経て、
確実にデジタル上に移っている。
そうした中、いまEコマース(EC)の世界で大きな変化として語られる最新の考え方が
「デジタルシェルフ」である。これは直接的には、いままでお店にあった「リアルな棚」が、
手のひらのスマートフォンの中にある「デジタルの棚」に置き換えられることを指している。
ただ、変化はそれだけにとどまらない、これからはメディアや道行く人、家電など、
あらゆるものが「商品棚」になるのだ。
たとえば、SNSでフォローしている人やたまたま道ですれ違った人が持っているものと同じものを
その場で注文する。映画やドラマを観ながら、登場人物が着ている服を注文する。
冷蔵庫の中の常備品が切れるタイミングで勝手に商品が送られてくる。スマートウォッチなどの
ウェアラブルデバイスが体調の変化を感知して、必要な栄養を含んだ食材を届けてくれる。
このように、日常生活のあらゆるシーンに買い物が入ってくるのである。
今後は、リアル店舗の棚のシェアではなく、この「デジタルシェルフ」のシェアこそが、
多くの企業の命運を握ることになる。
▼日常生活で「買い物」をしている感覚はなくなっていく
こうした変化が進展していくことで、人々は間違いなく「買い物をしなくなる」。
もちろん、お金を支払って何かを買うことがなくなるわけではない。なくなるのは、
これまでの買い物におけるさまざまなプロセスだ。店に行くことや、現金を用意すること、
商品の現物を見ること、さらには商品を自分で選ぶことさえも含まれる。これまで当たり前だった
プロセスが次々に省略され、そのうち「買い物をしている」という感覚さえなくなっていくのだ。
本書では、こうした動きを「消費者視点」で見ながら、近未来を予測する。
アメリカや中国では、もはや消費者にとって買い物は「面倒くさいもの」という扱いになっていて、
必要なはずだったプロセスを次々に省略している。
たとえば、以前は「たくさんのものの中から選べる」ことがネットショッピングの価値だったが、
いまや大半の消費者は、「選ぶ」ことは面倒くさいと感じている。こうした状況でAmazonは、
買い物の大半は「摩擦」だとして、顧客が求めているものをAI技術により推測して提示するなど、
摩擦をできる限りなくす方向に動いている。欧米のハイブランドも、もはや「ショッピング体験」
ではなく「Unboxing(アンボクシング=届いた箱を開けること)」の部分の演出に力を入れている。
こうした変化をまとめつつ、約5年後の近未来を占う一冊、あなたにもぜひ読んでほしい。