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【イベントレポート】マスティンバー・イノベーションフォーラム
2026年3月13日に「マスティンバー・イノベーションフォーラム」が開催されました。『DLT――新しい木材材料が語る「持続可能な社会」のあり方』の出版を記念したイベントです。著者である、株式会社長谷川萬治商店の代表・長谷川泰治氏と法政大学教授の網野禎昭教授に加え、元林野庁職員で株式会社KOSO取締役の大貫肇氏が登壇しました。また、司会進行を務めたのは、長谷川萬治商店・技術開発室長の鈴木康史氏です。
【著者プロフィール】
長谷川泰治(はせがわ・たいじ)
株式会社長谷川萬治商店 代表取締役執行役員社長
東京木場の材木屋、株式会社長谷川萬治商店の4代目社長。大学時代は情報システムを研究。卒業後、電機メーカーのソニーでシステム開発や工場の生産革新活動に従事。
2009年に家業の材木屋に入社。現在、長谷萬グループの代表として、木材販売から木材加工、建築まで木材に関わる様々な事業を幅広く展開。近年は木育活動やデジタル技術の活用にも取り組み、「新時代の材木屋」を目指している。
網野禎昭(あみの・よしあき)
法政大学デザイン工学部 教授
1996年に渡欧、スイス連邦工科大学ローザンヌ校・木造研究所イボワにて研究助手。この間、林業から建築まで木材活用を一貫して考える視点を学ぶ。ウィーン工科大学建築学部教員を経て、2010年から法政大学デザイン工学部教授。日本や欧州の中山間地域を訪ね歩き、山を豊かにする建築のあり方を模索。
DLTとは?
DLT(木ダボ接合積層材)は、1970年代にヨーロッパで生まれたマスティンバー(大型の木質構造材料)の一種です。薄い木の板同士を木ダボで接合したもので、建築の構造部材として利用することができます。
DLTの特徴は、シンプルな技術で加工できることです。板材を積み重ねて、そこにドリルで穴をあけ、木ダボ(木でできたピン)を打ち込むことで、接着剤を使わずに木の板同士を接着します。

木材のストーリーを感じてほしい
冒頭に長谷川氏があいさつを述べ、書籍の内容に触れながらDLTへの思いを語りました。
「木は何十年もかけて山で育ち、何千年にもわたって継承された技術で木材に加工され、我々の手に渡ります。また、木には樹種や成長段階などにより、他の素材にはない多様性があります。木材業では『価格』や『強度』ばかりが重要視されがちですが、DLTを通じて、生産現場のストーリーや歴史的な背景、多様性にも目を向けていただきたいです」
また、DLTを使うメリットとして、「接着剤を使わず無垢の木で作られており、加工が容易。また、香りや調湿・調温効果などの木の効用が長年にわたって続く」と説明しました。
続いて鈴木氏からは、DLTを活用した個性豊かな商品が紹介されました。
「DLTは人の手で加工するからこそ、多様な商品が実現できます。当社では、DLTの板材に深く溝を掘って吸音材を入れ、オフィスの天井などに活用しています。また、通常は建築材料に不向きとされる、丸みを帯びた木材やまだら模様の木材も、DLTに加工して、デザインとして生かしています」
能登半島地震の被災者向けの仮設住宅プロジェクトでは、同社が作ったDLTの板を活用、現地まで運び、施工者が現地で箱型に組み立てて木の空間を作りました。

ローテクでもイノベーションを起こせる
続いて長谷川氏から、長谷川萬治商店がDLTを製作するようになった経緯が語られました。
「10年前に網野教授とヨーロッパへ視察に行き、DLTに出会いました。当初の目的はDLTではなく、当時注目されていたCLT(直交集成板)工場の視察でした」
CLTは、DLTと同じくマスティンバーですが、DLTは木ダボで、CLTは接着剤で板を接合している点に大きな違いがあります。
「まず、我々はオーストリアの東部でCLTやOSB(木片を接着剤で圧縮したボード)を大量生産する大規模工場や、それらで作られた大規模集合住宅を見学しました」
ヨーロッパでは、ベルリンの壁崩壊以降も東西のGDPの差は大きく、人件費・土地代が安い旧共産圏の東側の国に、大規模工場が集中して立地しています。網野教授の提案で、一行はオーストリア東部から西部へと移動しました。
「東側の大型建築だけでなく、西側の小さく美しい木造の街づくりを見てほしいと思ったからです。人件費や土地代が高い西側では、製材工場は小型化しています。でも、工業付加価値額は東側よりも高い。大量生産の東側とは対照的に、西側では手作業を中心とした少量生産です。素材に加工を施して高付加価値化することで、利益率を上げています。例えば、『穴を沢山空けた木の板をDLTでサンドイッチして作った、全て木材で構成された断熱壁』や『木の筒の中にコンクリートや電気設備、吸音材を入れて高付加価値化した資材』。ローテクな加工ですが、素材の付加価値を高めています」
長谷川氏は、「西ヨーロッパの建築に感銘を受けた」と語ります。
「ローテクでも工夫次第でイノベーションを起こせるという発見がありました。DLTは小規模な工場でも製作できるため、当社との親和性が高いと感じました」
こうして長谷川萬治商店は、すべて手作業の製造というスモールスタートからDLT事業を開始しました。注文が増えてきたため、現在は半自動化しています。

日本の林業の生産性が低い理由
大貫氏からは日本の林業の現状について説明がありました。
「日本は、製材工場の大規模化・高次加工化をすすめてきました。工場を大規模化すれば、林業が活性化すると思っていました。でも、待てど暮らせどそんな日はやってきませんでした」
むしろ、製材歩留まりという「1本の丸太から、どれくらいの木材が製材できたか」という工場の生産性を表す指標が、大幅に低下していると指摘します。
「歩留まり低下の原因の1つは、『プレカット』が普及したことです」
「プレカット」とは現場施工前に、工場の機械で設計データに基づいて木材を切断・加工する技術を指し、高い精度と大量生産を実現します。しかし、プレカット加工のためには、木材を非常に高いレベルで人工乾燥させる必要があります。
「乾燥を容易にするために、丸太は板材などの薄い資材へ加工されます。鋸を入れる回数が多いほど木は削られるため、歩留まりは低下します。歩留まりが落ちると、工場が仕入れる丸太の量が増えるため、丸太の仕入れ価格の低下につながっていきます。これでは林業が儲かりません。日本の林業のために、歩留まりをしっかりと上げていく必要があります」と大貫氏は呼びかけました。
網野教授からは、歩留まりが低下している別の要因が指摘されました。
「日本人が品質や見た目に厳しく、使えるはずの木材を十分に活用できていません。日本では端に少し丸みがついた材や、虫食い跡がある材は、強度に問題がなくともハネ品扱いとなります。一方、ヨーロッパでは、質があまり良くない木材もDLTなどに加工し、高付加価値化して活用しています」
長谷川氏も、DLT活用が歩留まり改善の鍵になると語りました。
「日本でもDLTを活用して、木材を余すところなく使って歩留まりを改善していきたい。林業が潤うことで、再造林につながるという良いサイクルを回していきたいです」
木材の加工度を下げて山にお金を返す
網野教授は、DLTが生まれた背景について語りました。
「DLTの産みの親は、ドイツ生まれの木構造の専門家、ユリウス・ナッテラー(Julius Natterer)です。ミュンヘン工科大学で木造を専攻し、その後スイス連邦工科大学に赴任しました。私は彼の助手を8年間勤めました。ナッテラーは、木材の加工度や加工に掛かる人件費を上げないローテクにこだわっていました。その背景には、彼が戦前の木造建築を学んだことが影響しています」
第二次世界大戦に敗れたドイツは、資材・人材・資金・技術不足の中、木材とボルトだけで塔を作るなど、限られたリソースで国を復興しました。
「『身の回りにあるものだけで付加価値をつける』という考え方を、ナッテラーは戦前の建築家たちから受け継ぎました。また、彼がその後赴任したスイスは、日本と同じく、山がちな地形で大規模な工場を立てることが難しい状況でした。少量生産でも付加価値をつけるために、彼が発想したのがDLTです」
ナッテラーが二重螺旋の塔を作った際には、平角の木材を少しずらしながら積んだといいます。そうすると難しい加工をせずとも、自然とらせん形状になります。
「このように木材の加工度を下げることで、歩留まりが上がり、木材コストを下げることなく、多種多様な木材を仕入れることができます。また、ローテクであることで参入障壁が下がり、林木材業従事者を増やすことにもつながります。加工度を下げることが山にお金を返すことにつながる。私はローテクのすばらしさを彼から学びました」

未来のために木材を備蓄する建築へ
網野教授からは、DLT事業で大切にしている価値観が語られました。
「私たちは、産業的な効率だけではなく、『エシカルな価値』を大切にしています。日本では、安くて強度の高い『コスパの良い木材』が良いとされていますが、DLTでは強度がそこまで高くなくとも、多様な木を活用していきたいです。バラつきも欠点も含め、自然の多様性を受け入れ、柔軟に活用していくことが持続的な林業のあり方だと思います」
大貫氏からは、「未来のために植林をしよう」と呼びかけがありました。20年後に建築材として使用可能な人工林は、現在の4分の1程度になってしまう見通しだと大貫氏は警告します。
「『植える→育てる→使う→植える』のサイクルを回すためには、林業が儲かる必要があります。現状のような大量生産・大量消費ではなく、DLTで木材の付加価値を高め、木を大切に使っていきましょう」
一方で、「木を植えてから建築材として利用できるようになるまでには、約50年間かかるためリユースを前提とした建物の設計が重要だ」とも語ります。
網野教授も、リユースの重要性を強調しました。
「今作っている建物に、木材を備蓄していくという考え方が大切です。DLTは釘ではなく木ダボを利用しているため、建物を解体してもリユースが容易です。そういう意味でもDLTは持続可能な木材活用です」
最後に、長谷川氏から今後のDLT事業の展開が語られました。
「当初DLTは内装利用を想定していましたが、今後は建物の躯体として利用する『構造材』にも挑戦していく予定です。また、各都道府県に少なくとも一つはDLTに参画する工場ができることを目標に、DLTの生産に参画する木材事業者の仲間を全国に増やしているところです」
ネットワーク構築の重要性についても語り、「今回の書籍やDLTの商品を通してつながった皆さんと、一緒に木材やDLT活用の未来を考えていきたい」と締めくくりました。参加者からの質問も数多く寄せられ、拍手に包まれてイベントは閉会しました。

DLT 新しい木質材料が語る「持続可能な社会」のあり方
著者:長谷川泰治/網野禎昭
定価:1,980円(本体1,800円+税10%)
発行日:2025年12月19日
ISBN:9784295411703
ページ数:174ページ
サイズ:210×148(mm)
発行:クロスメディア・パブリッシング
発売:インプレス
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