- カテゴリ
- タグ
マーケティング効果の最大化!編集担当者が教える書籍活用術
書籍は、企業のマーケティングやブランディングに効果を発揮します。出版して終わりにせず、その効果を最大化させるにはどうしたら良いのでしょうか? 数々の書籍の企画からプロモーションまでを担うクロスメディア・パブリッシング編集部チームリーダー、金子樹実明に聞きます。
強みや可能性を掘り起こす出版
──まず、出版とはどのようなものか教えてください。
出版とはお客様自身も気づいていない強みや可能性を掘り起こすマーケティング方法だと考えています。
出版されるお客様からは、「集客をしたい、売上を伸ばしたいけれど、どうしたらよいかわからない」などとご相談いただくことが多いです。まずは、お話を聞いていく中で、現状や目的を整理整頓していきます。すると、新しいターゲットが見えてきたり、持っている強みがクリアになったりします。それを企画に落とし、コンテンツをつくっていくのです。
書籍は、あらゆるメディアの中で一番ディープなコンテンツだと考えています。情報量が多いので、1冊で企業の持っているストーリーやノウハウをしっかり伝えることができるのです。この特性を生かして戦略的に書籍をつくっていくのが企業出版です。
──どんな目的で出版を利用する企業が多いですか? また、実際にどんな効果が得られるのでしょうか。
出版の目的と効果は、大きく4つに分けられます。
1つめは、集客力の強化と売上の増加。企業の持っているプロダクトやサービスの深い魅力をストーリーにしていくことで、認知向上をはかり、リード獲得や売上の増加に貢献します。
2つめは、経営理念の啓蒙と浸透です。企業の理念を読み手にとってわかりやすい内容にしてまとめることで、組織を一体化させ、組織力を高めます。
そして3番目は優秀な人材の採用・定着です。2つ目と通じる部分がありますが、企業のことをよく知ってもらい、よりフィットする人材を惹きつけることができます。入社前に読んでいただくことでミスマッチが防げますし、社員のロイヤリティをあげる効果もあり、離職率低下にも寄与します。
最後、4つめは社史・周年史です。長く続いてきた企業の軌跡の中で生まれた哲学や理念を、歴史とともにストーリーとして編集し、次世代へ継承することができます。
①と③は顧客やステークホルダーに向けたアウターブランディング、②と④は組織内に向けたインナーブランディングの施策にわけて考えることができます。
実際は①と③、②と③の目的がそれぞれ混ざっていることもあります。
──具体的な事例を教えてください。
『2025年、人は「買い物」をしなくなる』という書籍を紹介します。ECのコンサルティングをおこなう企業が経営のブランディングをする目的で出版し、売上は3万部を超えて注目されました。著者はこの企業の経営者です。国内だけでなく海外のEC事例にも詳しかったため、当時トレンドだった未来予測系の企画コンセプトで書籍を作ったところ、非常に大きな反響がありました。
次に、『日本酒がワインを超える日』です。こちらは私が手がけた書籍で、著者である酒造の経営者は「世界規模でワインを超える日本酒をつくること」という大きな夢を持っており、それを伝える点を重視して書籍にまとめました。お話を伺ったところ、経営の歴史そのものも非常に面白かったので、編集の軸として1冊にまとめました。
『New Me わたしだけの新しい人生の見つけかた』は、ヨガのオンラインスクールを経営されている企業が、事業を拡大する上で経営者をブランディングしたいというところからつくった1冊です。経営者の方は紆余曲折を経て独立したストーリーをお持ちだったので、女性向けに背中を押すことを意識して書籍にまとめました。
そして、『収益性と節税を最大化させる不動産投資の成功法則』という書籍。著者は非常にロジカルな、しっかりしたノウハウをお持ちだったので、それを一冊にまとめました。不動産投資の書籍は多くの類書がありますが、その中で一番強い書籍をつくろうという方針で出版しました。現在でも売れ続けていて、さまざまな書店さんで目にすることができます。
他にも、IT企業、クリニック、保育園など様々な業態や、規模はスタートアップから中堅・大企業まで、出版されている企業はさまざまです。ですが、様々な企業と経営者が持つ特長とノウハウに応じて書籍を形にしていきます。
差異化×ターゲット設定が企画のポイント
──実際の書籍は、どのようにつくっていきますか。その上で、特に重視していることは?
特に重視しているのは、ストーリーで効果を最大化することです。そのためには、差異化とターゲットの設定が大切だと考えています。
差異化は、差別化とは異なります。自社以外の企業との違いをつくっていく行為を「差別化」とした時、差異化はまったく逆のアプローチになります。つまり、その企業がそもそも持っている強み、自信のあるところ、オリジナリティあるストーリーやエピソード、考え方を炙り出していきます。そうして見えてくるものが、結果として他の企業との「差異」になるという考え方です。差異によって、その企業が語る意味が見える、あるいはその経営者だけが持っている特長を言語化することができ、独自性へとつながります。
ターゲット、つまり読者の設定は、誰に読んでもらうべきなのかを考えることです。読んだことによって何が変わるか、変わったことでどんな認識が生まれ、どんな学びがあるのか、その結果どんな行動をとってもらえるか、を整理します。
考え方の順序としては、前述の差異化によってWHYに該当する「なぜ、その企業が語るのか」の意味が明確になります。次に「WHO=誰に本を読んでもらう」のかを設定する。その上で「WHAT=何を語るべきか」が露わになり、「HOW=どう伝えるべきか」へ落とし込むことができるようになります。
これをそのまま構成案へと落とし込んでいきます。伝えるべき要素ごとに細かくお話を伺いながら詰めていくのですが、WHYからWHOへの落とし込みの中で付加価値を生むためのストーリーを企画・編集していきます。このプロセスから生まれるストーリーと言語化が編集の価値だと考えています。
実際の制作のプロセスは、6段階に分かれます。キックオフミーティングで伺った内容をもとに、企画・構成案を作成します。これらが固まったら取材に入り、ライターが原稿を執筆し、編集者が編集を施し、校正、製本へと進みます。こうして、その企業だけのストーリーが凝縮された一冊の書籍が完成します。
ブレないプロモーションが成功の鍵
──ありがとうございます。制作したのち、どのようにプロモーションしていきますか。
書籍には、その企業・経営者がもっとも語る意味のある事や伝えたいことが凝縮されていますから、プロモーションの軸として機能すると考えます。プロモーションの際に重要なのは、差異化の中で見出した強みと、設定したターゲットを一致させることにあると考えます。最初に決めたターゲットを軸として、そこから広くアプローチするためにつくった企画であり書籍ですから、メディア展開を考える上でも一気通貫させる必要があります。軸の通ったプロモーションが、効果の最大化につながります。
実例をもとに、プロモーションの流れを説明します。あるコンサルティング企業の実売強化のプロモーションです。
フェーズ1では、弊社の得意分野であるAmazonマーケティングを実施し、Amazon上に充実した情報を掲載しながら、電子書店での実売をつくる仕組みを充実させます。同時に書店ランキングでもカテゴリの1位を獲得し、実績をつくり権威を獲得しました。それをもとに東洋経済オンラインなどウェブ記事で広くアプローチし、新聞広告なども掲載します。これらで集客を行いながら、リアルな書店イベントも実施していきます。また、メディア献本で他のメディアにも取り上げてもらうなど、情報のアウトプットが止まらない状態を作るよう心がけました。
このような施策の結果として、さまざまな書店のランキングで1位を獲得でき、Amazonの電子書店でも5カテゴリでベストセラー1位を獲得。ウェブや新聞広告と書店イベントの集客を連動させ、実施した書店さんでは過去最高の集客数を達成できました。また、2ヶ月の実売で60%を消化し、重版をかけることもできました。
このフェーズ1の実売実績をもとに、フェーズ2では全国チェーンの書店さんに働きかけ、店頭展開を強化しました。実績があると、店頭に追加で本を置いていただく交渉ができるようになるのです。加えて、デジタルサイネージを使った宣伝も行いました。このような取り組みでウェブ上のアウトプットが続く中でさらに、リアル書店でも実売が伸びている状態を作ることができました。
フェーズ3では、地下鉄の電車内に広告を出稿。より広く情報を発信しました。ある書店チェーンでは週売平均の通常期対比393%、駅ナカの書店では1214%を達成し、全店共通ランキングで総合8位を獲得するなどの成果が出ています。
出版をされた企業様からは、集客効果があり、依頼数が増えたと言っていただけました。意外だったのは、「本を出したから、新しくとても良い人脈と繋がることができた」という声をいただいたことでした。出版という深い理解を促すメディアだからこそ、人脈構築にも効果が現れたのではないかと考えています。
他にも、新聞の本紙や地上波のビジネス番組、ビジネスメディアに取り上げられたりと、さまざまな形での拡散が成功した事例があります。最初にお伝えしたように、企画の骨子をきちんと固め、それを守りながら書籍の制作からデザイン、プロモーションを行っていくことが重要です。ともにゴールを設定し、伴走していくのが我々の役割だと考えています。