ブランディング

ブランドの歴史〜シン・ブランド論【第2回】〜

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocket
  • LINEで送る

投稿日:2023年6月29日 | 最終更新日:2024年3月8日

日本におけるブランド戦略の権威の一人、中央大学名誉教授の田中洋氏を講師にお迎えし、全5回「シン・ブランド論」をテーマにお話しいただきました。

ご自身の実践的な知見を豊富に蓄積してまとめ上げた著書『ブランド戦略論』をベースに、新しいコンテンツを付け加え、昨今のデジタル時代に求められるブランド論から未来のブランド論に至るまで、クロスメディアグループ広報の濱中悠花がインタビューを行いました。

本日は第2回「ブランドの歴史」です。

第1回はこちら
シン・ブランド論〜【第1回】なぜシン・ブランド論なのか〜

登壇者

田中 洋
中央大学名誉教授

1951年名古屋市生まれ。京都大学博士(経済学)。株式会社電通マーケティング・ディレクター、法政大学経営学部教授、コロンビア大学大学院ビジネススクール客員研究員、中央大学ビジネススクール教授などを経て2022年から現職。日本マーケティング学会会長、日本消費者行動研究学会会長を歴任。フランス国立ポンゼショセ工科大学ビジネススクール、東北大学、名古屋大学、慶應義塾大学、早稲田大学などで講師。経済産業省・内閣府・特許庁などで委員会座長・委員を務める。消費者行動論・マーケティング戦略論・ブランド戦略論・広告論を専攻。多くの企業でマーケティングやブランドに関する戦略アドバイザー・研修講師を務める。主著『ブランド戦略論』(2017年、有斐閣)を始めとして多くの著書・論文がある。日本マーケティング学会マーケティング本大賞/準大賞/優秀論文賞、日本広告学会賞、中央大学学術研究奨励賞、白川忍賞などを受賞。

濱中 悠花
クロスメディアグループ株式会社 広報PR担当

1995年大阪府生まれ。2020年、University of Wisconsin コミュニケーション学部メディア学科を卒業。 同年の12月、クロスメディアグループ株式会社に新卒として入社。広報としてのキャリアをスタートする。 いまは新しい広報モデルを模索しながら、採用広報、企業広報、社内広報、販促広報、事業開発を行っている。

先史ブランド

濱中:前回は、「なぜシン・ブランド論なのか」というテーマでお話しいただきました。今回は第2回「ブランドの歴史」です。そもそもブランドは、いつから存在していたのかということや、発展の歴史について教えてください。

田中:おもに、ヨーロッパと日本の歴史をみると、ブランドの歴史は「先史ブランド」「原ブランド」「前近代ブランド」「近代ブランド」「現代ブランド」の五つに分けられると考えています。

まず、初めの先史ブランドについてです。先史というのは、歴史として文字で残っている時代以前ということで、日本では縄文や弥生時代が当てはまります。文字で残っていないので断定はできませんが、考古学者の間では、ブランドらしきものがあったと考えている方が一部いらっしゃるようです。

濱中:先史ブランドとしては、どのようなものが残っているのでしょうか?

田中:黒曜石という石の石器があります。石器は、石を削って鋭い歯を作り、肉を切るなど暮らしに役立てていた道具で、中でも黒曜石を使った石器が珍重されていたということがわかっています。黒曜石は、特に鋭い角を作ることができ、実用性に優れていました。また、見た目も非常に美しく、人々の間で大切にされていたようです。

昨今、発掘された黒曜石の物質を分析することで、黒曜石の石器にブランドに当てはまる部分がありそうだとわかってきました。黒曜石は、長野県の八ヶ岳の一部や、伊豆諸島の神津島など、限られた場所でしか採取できなかったそうです。そしてその数か所で取れた黒曜石は一定の場所に運ばれ、黒曜石専門の職人によって石器となり、全国に流通していたようです。

あくまで推察の域を出ませんが、黒曜石の石器を手にした人が「有名な職人の〇〇さんが作った石器。かっこいいだろう」のようなことを誰かに言って、何かと交換され、広く流通していったのではないでしょうか。こういう財を「威信財」と言いますが、今日でも我々は威信財としてのブランドを持つことが珍しくありません。例えば、グッチのバッグなどです。

濱中:歴史が存在する以前の時代から、ブランドに似た考え方があったというのは非常に興味深いです。では、歴史が開始されて以降に生じたブランドについて教えてください。

原ブランド

田中:原ブランドについて詳しく話していきます。英語ではプロトブランドといい、ブランドの原型を意味します。

古代エジプトの遺跡では、ワイン容器の栓にエジプト王ファラオの名前と、産地を意味する文字が刻まれていたそうです。また、ローマ帝国時代のイタリアの遺跡では、どこの産地のワインがおいしいのか、とか、100年もののワインが流通していた、といった記録が残っています。

現代の私たちが、産地でワインを選ぶのと同じように、当時の人々もワインを選んでいたのではないでしょうか。産地の表示が、信用や一定の品質を約束するものになっています。これはブランドの原型だといえます。

濱中:産地というブランドで選ばれるようになっていたんですね。

前近代ブランド

田中:その次にくるのが、中世の前近代ブランドです。中世の時代には、ものの売買が盛んに行われていました。

例えば、フランスにシャンパーニュ地方というワインで有名な場所があります。そこに、3、400年ほど続いたシャンパーニュ大市という市場がありました。ハンザ同盟に参加していた、北ドイツ中心の商業や工業が盛んな地域と、地中海での交易が盛んだったベネチアを結ぶルートの真ん中あたりに位置する場所です。シャンパーニュ大市では、食品や調味料、嗜好品、道具など限られた商品分野で、産地の印が付けられていました。これもブランドといえます。

中世は約1,400年という長きにわたって続いた時代ですが、今日のような、企業が作ったプランドはまだみられませんでした。

濱中:日本の歴史には、何かブランドについてわかっていることはありますか?

田中:室町時代、京都で「柳酒」というものが生まれています。日本でおそらく初めての本格的なブランドで、マークやブランドネームがありました。和歌や日記にも、柳酒という言葉が出てきます。

柳酒がブランドになり得た理由には、醸造品であったことが大きいと思っています。醸造品は長期間の保存ができるので、広く流通します。柳酒がおいしいお酒だということが伝わり、贈答品としても珍重されていたようです。

濱中:中世の日本に、本格的なブランドが生まれたんですね。おもしろいです。

近代ブランド

田中:19世紀末から20世紀初め頃、第2次産業革命といわれる、大量生産、大量消費の時代に登場したのが近代ブランドです。世界初の大量生産車となった「T型フォード」もこの時代に生まれています。

この時代には、マーケティングや販促を目的として、ブランド名やブランドに関する商標、シンボルなど、ブランドの同一性を示すものを備えたブランドが登場してきました。

例えば、世界一の販売量を誇るビール「バドワイザー」をアンハイザー・ブッシュというビール製造会社が生み出したのもこの時代です。それまでのビールは、日持ちがしないため、地ビールが一般的でした。しかしアンハイザー・ブッシュが、世界で初めてビールを低温で殺菌して瓶詰めにする方法を発明。一本一本パッケージで包み、鉄道網を利用して全米に売り出したんです。

これは現代のブランドの始まりだといえます。

濱中:これは大きな革命ですね。今回のキーポイントになってくる気がします。

田中:そのとおりです。これは包装革命とよばれています。それまでは地産地消の時代で、ものが生産された近くの場所でしか消費されていなかったんです。包装革命を機に、ものを包むだけではなく、ものを保存し、それを遠くまで運んで遠くの人がそれを手に入れることが可能になりました。

「バドワイザー」と同じように、日本では「ミツカン酢」というお酢のブランドが誕生しました。戦後、酢は樽で出荷されていたのですが、偽物を詰められて転売される事態が起こっていたんです。そこで、瓶詰めにして売り始めます。偽物が出回ることがなくなり、ナンバーワンのブランドとなりました。

お味噌も当てはまりますね。現在では、パッケージ化され、カップ容器に入ったものを購入します。しかし昔は、味噌の入った樽が店頭に置いてあり、そこからほしい分量を量って購入していました。戦後に、マルコメ味噌が味噌をパッケージ化して小分けで売ることを考えました。味噌も包装革命によってブランド化した事例になります。

このように、今日私たちが目にする多くのブランドは、包装革命によって生まれてきました。同時に、スーパーマーケットのような様々な商品を扱うお店ができるなど、私たちの消費活動の原点にもなっています。

濱中:今日の消費活動の原点になった包装革命は、そんなに昔のことではなく、今から百数十年前のことだったんですね。

現代ブランド

田中:では最後に、現代ブランドについて詳しく話していきます。現代ブランドは1980年代以降に生まれたブランドのことです。ブランドが企業の無形資産の一つだと認識されるようになったり、企業のマネジメントの対象になったり、といった動きがみられるようになりました。

顧客が自由に選択できるようになったことが、こういった動きの背景にある理由の一つです。第1回でお話ししたブランドの重要性について、具体的に注目されるようになっていきました。

濱中:形あるものだけではなく、ないものへも広がっていったんですね。具体的に、どのようなものがあげられますか?

田中: 例えば「マクドナルド」だと、商品はもちろん、店頭でのサービスもブランドです。スポーツやエンターテイメントにまで、ブランドの対象が広がりました。

例えば、アメリカ前大統領のトランプ氏は、不動産をブランド化した人だといわれています。マンハッタンの「トランプ・タワー」は特に有名で、「トランプ」の名の付いた高級不動産物がアメリカ各地にいくつも存在しています。不動産に「トランプ」の名を冠する権利を売ってブランド化し、多額の名称使用料などを得ているのです。

濱中:ブランドを売買する動きも出てきました。

田中:そうですね。M&Aにより、ブランドを他社から買収し育てることも現在では多くの企業によってなされています。たとえば、カルピスというブランドは最初に味の素によって買収され、次にアサヒビールが買収しました。現在では、企業ブランドや事業ブランド、商品ブランドなど、幅広い種類のブランドがあって、様々な形でブランドの活動が展開されています取引されています。名前やマークだけがブランドではなく、その商品の動きや色の組み合わせ、テレビCMの音楽までも商標として登録できるようになりました。
ブランドの範囲が、30年間ほどでものすごく広くなりました。非常に興味深いですね。

まとめ

濱中:先史ブランドから現代ブランドまで、ブランドの成り立ちに関して体系的に学んだことがなかったので勉強になりました。では最後に、今回のまとめをお願いします!

田中:ありがとうございます。ここまで、ブランドの歴史を駆け足でお話ししてきました。

ブランドの概念は拡張しています。ですので、ブランドの考え方をいろいろなところに応用すれば、ビジネスにおいて何かしら新しいことが可能になるのではないかと考えています。

例えば、新しいサービスを始める際にそのサービスに名前を付けるなど、ブランドとしてビジネスを成り立たせていくことも、一つのポイントになってきそうです。

濱中:ありがとうございました!それでは次回は、ブランド戦略と構造についてです。

続き(第3弾)はこちら↓
ブランド戦略の構造〜シン・ブランド論【第3回】〜


この記事を読んだ方は他にこんな記事を読んでいます。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocket
  • LINEで送る

コメントを残す

*