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強者・弱者の競争戦略と失敗のリスク

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はじめに

マーケティング戦略を考える時、つい陥りがちなのは「顧客と自社」の関係だけで計画を立ててしまうことです。しかし、忘れてはいけない決定的な要素が存在します。それは「競争相手」です。

顧客から見れば、あなたの会社は多くの選択肢の一つに過ぎません。競争相手と常に比べられ、選ばれるのが当たり前なのです。顧客に、数ある競争相手ではなく、敢えてあなたの会社を選んでもらうにはどうすれば良いのか? これを真剣に考えるのが競争戦略です。

この記事では、競争戦略を「強者の競争戦略」と「弱者の競争戦略」の二つに分け、その内容と共に仮に失敗するとしたらどんな時か、その失敗リスクを少なくする方法は何かも併せてお話します。

強者と弱者

競争戦略を考える上で、まず認識すべきは「自社が強者なのか弱者なのか」ということです。なぜなら、強者と弱者では取るべき戦略が全く異なるからです。

業界のナンバーワン企業、売上ナンバーワン商品、人気ナンバーワン商品は、紛れもなく強者です。ナンバーツー以下はその市場における弱者となります。しかし、ナンバーツー企業であっても、下位の企業から見れば強者と言えるでしょう。

強者と弱者の立場は、戦う市場や土俵によっても変化します。業界ナンバーワン企業であっても、新たな市場に参入する際は弱者となるケースが多いでしょう。
重要なのは、自社がこれから挑む戦いで、強者なのか弱者なのかを冷静に見極めることです。

強者の競争戦略

強者の競争戦略として、様々な書物、教科書でも語られていますが、私自身が実際に体験したものを3つご紹介します。

1. マインドシェア戦略

「〇〇(商品カテゴリー)と言えば、やっぱり△△(自社商品)だよね」と連想されるような圧倒的な存在感を築き、顧客に詳細な比較検討をさせずに選ばせる戦略です。これは市場で既に最強のポジションを獲得している、いわゆる「ディフェンディング・チャンピオン」の戦略と言えるでしょう。

顧客側も「△△なら安心」「一番人気だから深く考えずに買ってしまう」「皆が使っているなら無難だろう」といった心理が働き、自然と優位に競争を進めることができます。

また、実際にNo.1でなくても、No.1を凌駕するような圧倒的な広告の露出量でマインドシェアを強引に獲得する方法もあります。声の大きさ「Share of Voice」でNo1になり、顧客の記憶に名前と存在を強く刷り込みます。今日ではSNSの爆発的な拡散でも同様の効果を生みますが、そのためには、拡散されやすい題材(時にビジュアル)が必要です。

緻密に運用してきたウェブ広告が無力に感じられるほど、暴力的とも言える効果を発揮することがあるため、この戦略はライバルがまだ手を出していないタイミングで実施すると絶大です。

いずれにしても、人は商品選びの際、面倒な比較検討を極力避け、簡単に選びたがるという心理を巧みに突いた戦略と言えます。

しかし、この戦略にはリスクもあります。ライバルも皆この戦略を取ることで、広告出稿合戦になり、財務的に疲弊する可能性がある点です。また、土俵を変えて見事な差別化戦略を取ってきた別のライバルに足元を救われるリスクも存在します。膨大な広告費を捻出できる企業には有効な戦略ですが、それが難しい企業は、ライバルが手薄な時以外はやめた方が無難でしょう。

2. コストリーダーシップ戦略

他社と比較して特に目立つ特徴がない場合でも、あらゆる面で同等以上の競争力を持ちながら低価格で商品を提供することで、「(特別な趣味嗜好がない限り)△△で十分じゃないか」と顧客に思わせる戦略です。

顧客は特別な何かを求めていない限り、この商品を選ばない理由を見つけるのが難しくなります。この戦略を成功させるには、スケールメリットを活かしたコスト削減が不可欠であり、主に大規模な企業が採用するケースが多いでしょう。

近年では、グローバルなプラットフォーマーの台頭により、この戦略は特にクローズアップされています。これは、いわば「巨人」の戦略と言えます。このプラットフォーマーの影響で、市場では圧倒的な巨人か、強い個性を持った小さい企業しか生き残れないという現象が起きています。中途半端な強者が生き残るのは難しくなり、多くの企業が厳しい選択を迫られています。

いずれにしても、この戦略を採用できるのはごく一部の巨大企業に限られます。したがって、大多数の企業にとっては、この戦略で成功している企業の存在を前提としつつ、弱者として自社をどう位置づけるかという「弱者の戦略」が重要な鍵となります。

3. モグラたたき戦略

挑戦者がまだ弱い段階で徹底的に潰してしまうという戦略です。これは、すでに強者である企業が資金力、技術力、ブランド力、流通力、人材力など、あらゆる面で優位に立っているからこそ可能なやり方と言えるでしょう。

例えば、下位企業が新商品を発売する情報を得た場合、すぐに類似商品を開発・販売して成功を阻止したり、下位企業が展開するプロモーションをより大規模なプロモーションで潰したりするなど、その方法は多岐にわたります。

えげつない手法ですが、実際にはかなり広く行われている戦略です。しかも、それを巧妙に隠して行うことが多いのが特徴です。

テレビ広告など表立った場では、万人からの支持や好感を得る宣伝を展開しながらも、裏では営業現場や地域市場での局地戦で、札束を武器にしてライバルの挑戦を叩き潰す、という手法が典型例です。こうした二枚舌の戦略は、マーケティング以外の場面でもよく目にする光景ではないでしょうか。

この戦略のリスクは、弱者叩きに市場リーダーがリソースを割きすぎることで、市場の魅力や活力が失われ、市場全体が陳腐化・衰弱化する可能性があることです。あるいは、昨今のSNSの普及により、弱者叩きを行う強者がSNSで非難の嵐にさらされ、顧客離れが発生するリスクもあります。

やらなくて済むならそれに越したことはありませんが、もし実行するのであれば、ライバル企業だけでなく、販売店や消費者を含む世間全体からの反感を覚悟したうえで、徹底的に遂行する必要があります。

強者の競争戦略のリスク

強者は有利な立場でマーケティングを行えますが、いくつかの落とし穴も存在します。実際に落とし穴に落ち、強者のポジションを失ってしまうことも多いのです。

1. 環境の変化による競争ルールの変更

時代や社会、市場は絶えず変化しており、かつての強みが弱みに変わることもあります。競争ルールが劇的に変わるリスクに備えるためには、変化の兆候をいち早く察知し、時には自己否定をしてでも、新たな価値に挑戦する姿勢が求められます。

しかし、これは簡単なことではありません。長きにわたって強者であり続けるほど、現状維持の姿勢が染みつき、今までの成功を投げうってでも新しい方法に自身を変革するのは難しいものです。今までの強者が失脚し、新しい強者が支配することになる典型的なケースと言えます。

リスク回避の鍵は「自己否定をする勇気」です。

2. 技術の変化による競争ルールの変更

技術革新によって競争環境は劇的に変化する可能性があります。今までできなかったことができるようになり、競争のルールが変わることで、強者がその座を追われることも少なくありません。技術の変化は大変激しく、2年もするとガラッと変わってしまうことが多いのです。

胡坐をかいていると、あっという間に1周遅れ、2周遅れとなり、手遅れになる可能性があります。常に技術の変化をキャッチアップし続けなければなりません。デジタルの世界で日本が世界の後塵を拝しているのはこの良い例です。

現在のデジタル、そして今後は生成AIが引き起こす事象がまさにこれに当たります。

当面最大のテーマが生成AIであることは間違いないでしょう。これをどう自社のビジネスに取り入れることが出来るかが今後の企業の命運を分けるのではないでしょうか。

3. 100%満足することはない顧客という存在

顧客は、自分が使っている商品に100%満足することはありません。どんなに愛用してくれている顧客でも小さな不満は抱えており、それは競争相手にとってのチャンスとなります。

小さな「隙」が突破口となって、せっかく培ってきたことが総崩れになることもあります。とにかく「隙」を作らないことが重要です。もしくは自社の「隙」をはっきり自覚して他社の動向を注視することです。

顧客満足度調査やNPSで大勢の動向を見て一喜一憂するだけでなく、少数の例外的意見、ほんの数人が語った不満・否定的コメントでも見逃してはなりません。「満足度が90%に上がった!」ことで満足するのではなく、満足しなかった10%が何を言っているのか必ずチェックすることです。ダムの決壊も最初は小さなひび割れから始まるように、後に会社の存続を脅かす深刻な事態も、最初は例外的な異常値として出現するのです。

4. 「客の飽き」という怖い敵

顧客は飽きやすい生き物です。これは人間の根本的な性質と言えるでしょう。どんなに優れた商品でも、同じものを使い続けていると飽きてしまい、新しいものに目移りしてしまうものです。

かつて絶対的王者と見なされていた商品でも、いつの間にか上位銘柄の「One of Them」に成り下がってしまうことがあります。緩やかな変化の中で、王者たらしめていた強みが陳腐化し、希薄化していくのです。

「なぜその商品を選ぶのか?」という問いに、顧客が以前ほど明確に答えられなくなってきた場合、その状況を見過ごすべきではありません。最強の王者にとって最大の敵は「客の飽き」なのです。

そのためには、商品の小規模な改良やパッケージデザインの変更、さらに広告やイベントなどを活用して、新鮮さを巧みに演出し続ける必要があります。顧客を飽きさせないためには、最大限の知恵と労力を割くことが重要です。

長年にわたって人気を保ち続けている商品やブランドは、皆この取り組みを実践しています。一度、ロングセラー商品の歴代パッケージデザインを調べてみると、その頻繁な変化に驚かされることでしょう。

少しずつ変化を与えることで、逆に顧客からは「変わっていない」と感じられるように演出することが重要です。「古臭い」「オワコン」という印象を避けるためには、顧客が気づかないほどの細かな変化を継続的に加えることが求められます。ただし、思い切った変化を演出する方法もありますが、その場合には従来の顧客を離れさせるリスクが伴うことを忘れてはなりません。

5. 弱い者いじめは嫌われる

強者がその立場を利用して弱者を圧倒する姿は、顧客や世間からの反感を招く可能性があります。

特に現在のようなSNS社会では、判官びいきの心理も相まって、いじめる側がいつの間にかいじめられる側になることも珍しくありません。そのため、強者としての立場を活用する際には、周囲からそう見られないよう細心の注意を払う必要があります。

先ほど述べた「モグラたたき戦略」でも触れましたが、テレビ広告では堂々とした王者のイメージを表向きにアピールしつつ、裏では流通への販促活動で極端に弱者潰しの手法を取るケースもあります。しかし、こうした二枚舌の戦略も、現在のSNS環境では裏の事情まで暴露されるリスクがあります。

強者が弱者を叩く場合は、ネガティブキャンペーンの発生も想定したうえで、覚悟を持って実行する必要があります。あるいは、最初から叩くような行動を避ける選択をすることも検討すべきでしょう。

6. 自社を強者と勘違いする

実は、最も多いリスクとして、弱者でありながら強者だと勘違いして、強者の戦略を取ろうとすることが挙げられます。「マーケティングの失敗の80%は自社の競争力の過大評価に起因する」と言われるように、自社の競争力を過大評価してしまうことは、取返しのつかないマーケティングの失敗に直結します。

ある市場で王者であるからといって、すべての市場で王者であるとは限りません。自社より強い相手がいる市場では、自社を「弱者」だと冷静に認識し、それにふさわしい戦略を取ることが求められます。

しかし、No.1の地位に慣れすぎると、新たに参入する市場ではNo.1どころかNo.2にも及ばない状況であるにもかかわらず、No1の戦略・振る舞いを取り、結果的に大きな失敗を招くケースが少なくありません。それほどNo.1の座は居心地が良いものなのです。

また、上記の競争ルールの変化によって、気がつけば自社が強者として立っていた基盤が崩れ、知らぬ間に弱者の立場に近づいている場合もあります。この現実を直視するのは辛いことですが、目を背ければ敗北につながります。頭を切り替えて弱者に適した戦略を立案・実行することが不可欠です。

マーケターにとっては特に、自信やプライドを抑え、「顧客目線で自社がどう映っているのか」を客観的に把握することが一番大切です。そのためには、数字の小さな変化をも見逃さず、顧客の声に謙虚に耳を傾け続ける姿勢が欠かせません。

おわりに

今回は強者の競争戦略について解説しました。強者には強者ならではの戦い方があり、それを理解することで、より効果的なマーケティング戦略を立てることができます。

しかし、強者であってもリスクは存在します。常に変化を意識し、顧客の声に耳を傾け、現状に満足することなく、自己否定すら恐れず進化し続けることが重要です。ライバルは常に強者のポジションを狙ってチャンスを窺っているのです。

次回は、弱者の競争戦略について解説します。弱者には弱者なりの戦い方があり、それを理解することで、強者に立ち向かうための戦略を立てることができます。