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M&Aとは?その意味やメリット・デメリットを簡単にわかりやすく解説
M&Aは「Mergers(合併) and Acquisitions(買収)」の略であり、企業の合併や買収といった「会社もしくは経営権の取得」を意味します。近年、後継者問題に悩む中小企業のM&Aが急増しています。2019年には、経済産業省が「第三者承継支援総合パッケージ」という政策で、第三者承継のM&Aを1年間で6万件目指すと発表しました。
本記事ではM&Aとは何かという意味からメリット・デメリットやその手法の種類について詳しくお伝えいたします。
M&Aとは
M&Aとは一般に会社や事業を全く別の会社や人が(主に売買によって)継承することで、2つ以上の会社が合併し一つになったり、ある会社が他の会社や事業を買収することを指します。
つまり、企業または事業の全てまたは一部の移転を伴う取引であり、一般的には「会社もしくは経営権の取得」を意味します。また、M&Aは広義の意味として、合併・買収だけでなく、経営面で協力関係を築く「提供」(業務提携・資本提携)を含む場合があります。
M&Aといえば資金力がある大企業が行うものであるといったイメージがついているかもしれませんが、昨今では後継者不足などの企業の幅広い課題解決策や、企業の成長戦略の手段として社会に受け入れられ、比較的小規模の中小企業のM&Aも注目されつつあります。そのため最近は、仲介会社を通して企業を選ぶのではなく、オンラインでマッチングできるM&Aプラットフォームなども登場し、ネットを活用した小規模のM&Aも増えてきています。
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M&Aのメリット・デメリット
M&Aは売り手側(譲渡企業)と買い手側(譲受企業)それぞれにメリット・デメリットがあります。
M&Aのメリット
売却側(譲渡企業)
・後継者不在による事業継承問題の解決
経営者の高齢化や少子化の影響により、多くの中小企業が後継者問題を抱えています。中小企業は親族が代々経営を継承していくことがあたり前でしたが、時代は大きく変わりました。事業を引き継ぐためには、経営能力が必要とされるのはもちろんですが、それだけでなく、今まで社長が持っていた株式や資産を買い取る資金力が必要で、会社の借入金があれば、自分で返済するくらいの覚悟や事業に対する熱意も必要です。
しかし、M&Aを実行し、外部の第三者に経営を引き継ぐことができれば、廃業を避け、自社を存続することができます。事業存続ができることで、廃業にかかるコスト削減や売却利益の獲得といった更なるメリットも得る事ができます。M&Aは後継者問題を抱える企業にとって事業継承を速やかに解決できる選択肢になるのです。
・事業の拡大や成長
廃業を回避し、事業の存続が可能になるだけでなく、譲受企業が持っている資本力などを活用し、事業の更なる拡大も見込めます。さらに、企業同士のシナジー効果によって技術・ノウハウの融合や販路・顧客の統合、設備の共同利用などによって事業の拡大と成長が可能になるでしょう。
・従業員の雇用を守ることできる
廃業になってしまうと従業員を解雇する必要があります。しかし、M&Aを活用することで、従業員の雇用を守ることができます。経営者にとって従業員の雇用を守ることは最も重要な役割です。そのため、中小企業のM&Aでは、従業員の雇用維持が譲渡条件のひとつになることが多く、M&A実行後、従業員は新しいオーナーへ同条件で引き続き雇用されることが一般的なのです。
さらに、大手企業の傘下にはいるなどでより大きなグループの一因になることで、安定した雇用の場を提供することができ、従業員活躍の場も広がることが期待できます。これは従業員だけでなくその家族の安心にもつながるでしょう。
・経営者の個人保証を解除できる
個人保証とは、企業が銀行など金融機関から融資を受ける際、経営者が連帯保証人になり返済を保証することを指します。
多くの中小企業は経営者が個人保証を行い融資を受けていますが、M&Aでは契約内容や手法次第で経営者の個人保証解消が可能です。個人保証から解放されることは経営者にとって、経済的・心理的に大きなメリットになります。
・創始者利益を得ることができる
創業者利益とは、会社の創業者が自社株式の譲渡(売却)などを行う際に得られる利益のことを指します。M&Aで株式譲渡を行うと創業者は大きな利益を得ることができるのです。
買収側(譲受企業)
・多角的な事業展開、売上・シェアの拡大
自社を経営していく中で、安定的に売上を伸ばすには収益源の多角化が必要になってきますが、一から新規事業へ参入するのはさまざまなリスクがあります。
M&Aによって異なる業種や事業内容の企業を買収することで、これまで自社になかった分野や業界への参入やバリューチェーンの拡大を図ることができます。既にある分野で業績を伸ばしている事業などを買収できれば、時間をかけずローリスクで事業・収益の多角化が可能になるのです。
・優秀な人材の確保と技術力の向上
多くの企業・業種において人材獲得を目的にしたM&Aが増えてきています。新規事業参入だけではなく、人材やその人材がもつノウハウや技術なども取り込むことで、自社の既存事業強化を図ることが可能なのです。
最近では、病院や薬局、建設業界、運送業界など、従業員に資格が必要な業界では、有資格者獲得のためのM&Aも行われるようになってきています。既に資格をもっている人材や技術者を自社へ招くことで、新たな分野へ事業の拡大、技術力向上に繋がるのです。
・短時間かつ低リスクでの新規事業開始が可能
上記で多角的事業展開についてお伝えしましたが、自社で一から新規事業へ参入することはさまざまなリスクや多大な時間、コストがかかります。しかし、M&Aですでに実績を上げている企業や事業を買収することで、このリスクやコスト、時間を軽減・削減することができるのです。
M&Aにおける企業買収は多額の資金が必要になってきますが、「時間を買う」ことで事業や従業員を育てるさまざまな労力やコストを削減しスピーディーに新事業が展開できることが一番のメリットとも考えられています。
・既存事業の強化・拡大
新事業への参入や事業の多角化も重要ですが、M&Aは既存事業の拡大にも大いに役立ちます。
同業の企業や関連する事業分野の企業を買収した場合、その企業が既に持っている不動産や設備などの有形資産や仕入れ先や取引先、顧客、流通網、技術、ノウハウといった無形の資産までもそのまま取り込むことができ、更なる事業の拡大や強化を図ることができるのです。
M&Aのデメリット
売却側(譲渡企業)
・ステークホルダーとの関係性が変わる
M&Aを実行することで事業内容や契約内容に大きな変更が生じると、元々の取引先や顧客などステークホルダーとの関係性が変わり、トラブルに発展してしまうことが考えられます。一番大切なのは従業員や仕入れ先、そしてお客様を円滑に引き継ぐことですから、譲渡企業はステークホルダーに対して、適切なタイミングで説明を行う必要があります。
・従業員の労働環境が変わる
従業員の雇用を守ることをメリットとして挙げましたが、雇用条件が譲渡後に変更される場合は注意が必要です。
雇用条件が大きく変わってしまうと、雇用を継続させても従業員のモチベーションが下がってしまったり、最悪の場合、退職してしまう従業員も出てきてしまうおそれがあります。雇用継続を重要視するのはもちろんですが、雇用条件も維持できるように交渉する必要があります。
・企業文化のミスマッチが起きる可能性がある
M&Aではほとんどの場合、売り手の企業(譲渡側)が買い手(譲受側)の社風やシステムに合わせる事になります。いままでとは全く違うシステムやルールを取り入れなければならない場合もあり、従業員にとって負担になる可能性があります。
また、システム面や組織形態、ハード面がうまく統合できても、それぞれの会社が築いてきた企業文化の統一はなかなか難しいものです。一気に全てを変えるのではなく、企業と企業が融合する意義をしっかりと伝え、売却前から準備を進める必要があるでしょう。
買収側(譲受側)
・短期間では想定していたシナジー効果が出ない
M&Aの実行後、経営統合は長期的に取り組んでいくことが必要です。つい先日まで歴史や社風も異なる別の企業同士だったものが統合してすぐに上手くいくという事はありません。そのため、期待しているシナジー効果を発揮するには長期的に取り組む必要があります。
まずはシナジー効果を発揮させるためにも企業統合を徐々に推し進め、少しずつその効果を実感できるような取り組みを行っていくことが大事でしょう。
・統合後の組織再編がうまくいかないことがある
上記にもお伝えしましたが、M&Aによる企業統合には時間がかかります。
買収された企業の従業員は買い手側企業の従業員となりますが、統合後に給与や福利厚生、働き方やキャリアアップなどの待遇が変わり、場合によっては従業員の望みを叶えられず不満が貯まってしまい、退職してしまうという事も考えられる為、新しく迎い入れる従業員との関係性構築は重要です。
せっかく優秀な人材を確保するために買収しても、買収後に従業員が離職してしまうなど人材が流出してしまっては買い手側にとって大きな損失になってしまいます。
・簿外債務など経営リスクを引き継いでしまう可能性がある
簿外債務とは、貸借対照表には計上されていない債務のことを指します。中小企業は「賞与引当金」や「退職給付引当金」などが簿外債務となっている場合が通常です。
M&Aでは、売却した企業がこの簿外債務をはじめとした負債などの経営リスクを継承してしまう恐れがあります。このようなリスクを引き継がないためには、買収前に買収監査を徹底して行うことが重要になります。
M&Aの種類(スキーム)
M&Aは広義で考えたとき大きく分けて「買収」と「合併」、そして「(業務・資本)提携」の3つに分けることができます。(狭義で考えたときは「買収」と「合併」の二つに分けられる)
分類したこの3つの手法のなかでも更に細かい手法に分けられます。今回は経済産業省の中小 M&A の主な手法と特徴資料から引用してお伝えします。
買収
株式譲渡
株式譲渡とは、譲り渡し側の株主が、保有している発行済株式を譲り受け側に譲渡する手法であり、譲り渡し側を譲り受け側の子会社とするイメージである。
経済産業省(参考資料1)中小 M&A の主な手法と特徴
譲り渡し側の株主が変わるだけで、会社組織はそのまま引き継ぐ形となり、会社の資産、負債、従業員や社外の第三者との契約、許認可等は原則存続する。また、手続も他の手法に比べて相対的に簡便であると言える。ただし、未払残業代等、貸借対照表上の数字には表れない簿外債務や、紛争に関する損害賠償債務等、現時点では未発生だが将来的に発生し得る偶発債務もそのまま引き継ぐことになる。
事業譲渡
事業譲渡とは、譲り渡し側(下図の A 社)が有する事業の全部又は一部(土地、建物、機械設備等の資産や負債に加え、ノウハウや知的財産権等も含む。)を、譲り受け側(下図の B 社)に譲渡する手法である。
経済産業省(参考資料1)中小 M&A の主な手法と特徴
資産、負債、契約及び許認可等を個別に移転させるため、債権債務、雇用関係を含む契約関係を、一つ一つ、債権者や従業員の同意を取り付けて切り替えていかなければならず、譲渡する資産の中に不動産を含むような場合には登記手続も必要となる。
~中略~
事業譲渡の手法を選択した場合には株式譲渡に比べて手続が煩雑になることが一般的であるが、個別の事業・財産ごとに譲渡が可能なことから、事業の一部を手元に残すことも可能となる。譲り受け側にとっては、特定の事業・財産のみを譲り受けることができるため、簿外債務・偶発債務のリスクを遮断しやすいというメリットがある。
会社分割
会社分割とは、会社法が定める組織再編の手続の1つであり、会社の事業に関して有する権利義務の全部又は一部を分割し、他の会社(又は分割に伴い新たに設立する会社)に包括的に承継させる手続である。会社分割においては、「会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律(労働契約承継法)」によって、一定の要件を備えた場合には、原則として雇用が確保される。また、許認可等についても、個別の各種業法等によりそのまま引き継がれるケースもある。
経済産業省(参考資料1)中小 M&A の主な手法と特徴
合併
合併とは、会社法が定める組織再編の手続の1つであり、譲り渡し側の権利義務の全部(会社の全ての資産、負債、契約等)を他の会社(又は合併に伴い新たに設立する会社)に包括的に承継させ、譲り渡し側は消滅する手続である。法的に一つの法人となることから結合は強くなる。また、許認可等についても、個別の各種業法等によりそのまま引き継がれるケースもある。一方で、組織内における雇用条件の調整や、事務処理手続の一本化等を要することがあり、また簿外債務・偶発債務にも注意する必要がある。
経済産業省(参考資料1)中小 M&A の主な手法と特徴
業務提携・資本提携
業務提携とは、企業間で業務上の協力関係を築く手法(共同物流や資材の共同調達、商品の共同開発等)であり、事業承継に向けた第一歩と位置付けられる。
経済産業省(参考資料1)中小 M&A の主な手法と特徴
他方、資本提携は、業務提携の強化や資本増強等のために、一定の限度で相互の株式を持ち合うことや、一方の会社の株式の取得、第三者割当増資等を行う手法である。
業務提携や資本提携は、一定の提携を足がかりにして、両者の融合を図りつつ、徐々に事業承継を進めていくような場合に活用可能な手法である。
ここで紹介した手法以外にも、株式交換、株式移転や、各種手法を組み合わせることもあり得ますが、本記事では主に利用されることが多い手法を紹介しました。
引用・参照元:経済産業省(参考資料1)中小 M&A の主な手法と特徴
M&Aを行う際に重要なポイント
M&Aを行う上で重要なポイントは「マッチング」です。売り手企業も買い手企業もお互いの条件や相性次第では本来の目的を果たせなくなることがあります。
知名度や資本力、影響力がある企業が最適な相手とは限りません。自社の強みをさらに伸ばし、弱みを補い、課題解決できるような自社にマッチした交渉先を探す事が大切なのです。そのためにはどんな条件を設定すべきか、入念に考えてM&Aに取り組む必要があります。
売り手企業も買い手企業も対等な立場という事を忘れず、win-winの関係性を築くことができるように、しっかりと相手を見定めていくことが大切でしょう。
まとめ
M&Aは後継者問題を背景に社会的ニーズの広がりを見せており、M&Aを行う企業は急増してきています。しかし、まだM&Aは敷居が高いと思っている経営者や、M&Aによって第三者に事業を継承することに抵抗感を持つ中小企業の経営者は少なくありません。これは、M&Aのメリットや種類といった知識や理解が不足していることが考えられます。
正しい知識を身につけ、事業継承にはM&Aという手段があるということを知っておくことが大切でしょう。
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