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中小企業にこそ必要なブランディングという経営戦略
「ブランディング」と聞くと、なんとなく大企業が行うことと思っている方が多いのではないでしょうか。しかし、実は中小企業にこそ、ブランディングは必要なのです。
ブランディングとは端的にいうと自社のファンを増やすことです。そしてビジネスの目指すゴールは商品やサービスを購入してもらい、さらにリピートして買ってもらえるロイヤルカスタマーを掴むことです。
2021年4月に出版された『ブランディング・ファースト』の著者である宮村氏によると、ブランディングとは「イメージ戦略」ではなく、「経営戦略」であり、「柱の確立」であるとしています。企業という構造体は、プロダクトや、その背景にある経営者や企業の強い想いといった柱があってこそ、安定して自立できるのです。本書の中では、ブランディングを、企業の中にある「柱にしたいもの」「柱になるべきもの」を誰もが納得するブランドとして確立させるための施策としています。
大企業やその他競合との差別化を図るためにも、中小企業こそ、「広告」「価格」「品質」に頼るのではなく、しっかりとした「柱」が必要であり、柱づくりであるブランディングが必要不可欠なのです。
大企業に勝つための中小企業の活路
近年、時代は目覚ましい勢いで、大きく変化しています。端的に言えば「規模の経済」から「品質の経済」への移行です。規模の経済からメリットを得られるのはごく一部の大企業だけのみになりつつあります。
「安くて高品質」は当たり前になり、その当たり前の平均値はどんどん上がり続けているのです。
同じような品質の、同じようなプロダクトで競い合う時代の終焉は「高品質で低価格」を実現しやすい大企業に有利な流れだと感じられるかもしれませんが、むしろ今こそ中小企業が活躍しやすい時代なのです。
なぜなら、中小企業は大企業がカバーできないニッチなニーズを満たすことができるからです。
例えば、服はよく買うけどユニクロやGUは利用しない人、音楽は好きだけどヒット曲や有名アイドルは聞かない人、どの分野にもニッチな分野が好きな人は一定数います。大企業もそのような層を認識していてもすべてのユーザーの趣味嗜好をカバーするのは不可能です。そのカバーされなかったニッチなニーズを満たすことが中小企業の活路なのです。
かつてはユーザーに与えられた選択肢そのものが多くありませんでした。しかし、昨今はインターネットの充実により情報を得ることが簡単になり、ネット通販などで簡単に消費者が商品を買うことができるようになるなど、顧客とのタッチポイントが格段に多くなりました。
そのため、私たちが購入したいと思えるニッチなプロダクトを知る機会そのものが爆発的に増えたのです。無名メーカーのプロダクトでも口コミサイトなどで一度注目を浴びれば、大企業のプロダクトよりも評価されることは少なくありません。
中小企業が企業ブランディングすべき3つの理由
社会が大きく変化している今、中小企業が対応すべき大切な要素は「差別化」「スピード」「インナー」の3つです。この3つすべてに効果のある経営戦略がブランディングです。
ブランドで実現する差別化
ブランドによって実現できる差別化には2つ方向性があることはご存じでしょうか。1つは競合他社との差を埋めて「追いつく」差別化のPOP(Point of Parity)、もう一つは競合他社にないものを伸ばし「追い越す」差別化のPOD(Points of Difference)です。
中小企業において、より重要性が高いのは特徴を伸ばして「追い越す」差別化のPODといえます。
なぜなら、追いつく差別化であるPOPは先行者たちに追いつくために、同レベルの競合との差別化を意味しているからです。しかし、追いついた先にはこれまでリードされていた別の競合が待っているため、進歩はしているものの、それは「強力なライバルと同じ土俵にやっと上がっただけ」とも言えます。
一方PODは自分たちの強み、柱としたいものに注力し、一点突破を狙います。お茶で例えるなら、特定保健食品(トクホ)認定商品や観光地などで販売される水や茶葉にこだわった特別な商品などがあてはまります。
中小企業は、資本力、開発力、知名度がある大企業と同じ土俵を目指すPOPではなく、PODの差別化を実現できる”何か”を探して具現化するのが中小企業のブランディングでは重要なのです。
「スピード」で上回る
スピードが大切になる理由は、時代の変化に伴って「マーケティング」ももちろん重要ですが、それ以上に「トライアル」がモノを言うようになっているからです。プロダクトの評価は人々の趣味嗜好・時代の流れ・運などに大きく左右されます。
もちろん、ヒット商品や新たな価値を生み出すには考える時間も必要です。ただし、かつてと同じようにマーケティングを丁寧に行い、じっくりと考えてからリリースをするという動き方では、競合に出遅れてしまう可能性があります。
タイム・イズ・マネーやタイム・イズ・ライフという表現があるように、時間は非常に貴重なのです。
そして、このスピードが大企業は中小企業に比べ遅いと言えます。その隙をつき中小企業はスピーディーな意思決定とトライアルを行うことができます。
ブランディングに取り組んでいる中小企業は、企業のブランドの柱が明確になっており、進むべき方向も明らかになります。社員の意思統一がなされ、無駄が省かれ、意思決定のスピードが上がるのです。
「インナー」のエンゲージメントを高める
「インナー」とは社内や、そこで働く従業員の方々を指します。社内の全員が、自社の強みを自覚し、柱として育てていくベクトルを一致させて一丸となり仕事に臨むためには、従業員のエンゲージメント(愛着心)を高める必要があります。近年このインナーブランディングも注目を集めています。
ブランディングが社内に浸透すれば、従業員1人1人が誇りをもち、生き生きと働けるようになり従業員の満足度の向上が見込めます。ブランドという柱があることで従業員それぞれも目標も立てやすくなり、皆が同じ方向を向いて仕事に取り組むことができるのです。
インナーブランディングについて詳しくはこちら↓
『インナーブランディングとは?意味や手法について解説!』
企業ブランディングという経営戦略
ブランディングの本質は、「企業の理想像」を明確にすることです。事業を立ち上げ、売上を作り、経営を続けることができている企業は、少なくとも、ある程度の魅力があるプロダクトや事業をはじめ、継続するだけの経営者の思いがあるはずです。これらは「ブランドの芽」と言えるものです。ブランディングはその芽を社内外の誰もが「企業の柱である」と認識するところまで育てるための施策です。
ブランディングとは、単に広告宣伝を行い、知名度をあげることではないことはおわかりいただけたでしょうか。「売れ続ける力」を獲得するためには価値を磨き、高め、適切なターゲットに自社のプロダクトの価値を認めてもらうことが重要なのです。
膨大な商品の中から、ユーザーに選ばれるために必要なのが”ブランド力”です。それを高めるための経営戦略がブランディングなのです。
中小企業の企業ブランディング成功事例(『ブランディングファースト』より引用)
BOTANIST
シャンプーなどヘアケア製品を中心に扱い、若い女性に強く支持されている「BOTANIST」というブランドがあります。BOTANISTは「植物と共に生きる」というブランド理念を掲げ、植物由来の原料に徹底的にこだわったプロダクトが特徴です。BOTANISTはもはや自然由来のヘアケアブランドとして地位を確立しているといっても過言ではありません。実はこのブランドはI-neという大阪にある小さな会社が経営しているブランドです。
かつてはヘアケアといえばP&G(パンテーンなど)や花王(メリットなど)、資生堂(TSUBAKIなど)など、大企業のメジャーブランドがしのぎを削り合い、その他の勢力が参入する余地の非常に少ない業界でした。BOTANISTは、そのヘアケア市場に堂々と地位を築き上げ、いまや通販のみならず、店頭での流通も拡大しています。広告宣伝をほとんど行わず、InstagramなどSNS、Webを中心に商品をPRし、若者層に支持を広げ、メジャーに肩を並べるまでになっています
Cotopaxi
アメリカに「Cotopaxi」というアウトドアブランドがあります。2013年創業のこの新興企業は、店舗数も少なく、ザ・ノースフェイスやL.L.Beanといったアメリカのメジャーアウトドアブランドと比べると規模では完全に見劣りしています。それでも若者中心に熱狂的ともいえるファンを拡大しています。
その大きな要因は同社のブランディングにあります。
「”Gear for Good”=アウトドア用品を作り、売ることを通して貧困に苦しむ人々を助ける」というのが同社のブランドプロミスです。
例えば、Cotopaxiの人気商品であるカラフルなバックパックは、フィリピンの協力工場で一つずつ手作りされており、カラーパターンやデザインの一部の裁量を任せることで、フィリピンを経済的に支援するだけでなく、工場で働く現地の人たちのプライドの醸成にも貢献しています。他にも、年収が100ドル以下と言われるボリビアの放牧民が育てるリャマ毛を使ったジャケットを展開するなど、Cotopaxiは「貧しいコミュニティを支援する」という思いからブランドを確立し、メジャーに負けない存在感を発揮しています。
Cotopaxiの新しさ・強さは、製品の性能差がほとんど感じられなくなった製品に「ストーリー」といった新しい価値を付加したことです。
製品の背景にある柱の「ストーリー」に共感を集め、買ってもらう。同時に、若者たちはそのストーリーを人に話したくなる、そんな新たなブランディングが共感と熱狂を生み出しているのです。