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マーケティング戦略は「仮説シナリオ」の立案から生まれる─調査ありきにはならない戦略思考

嗜好が多様化する中で、「顧客理解」の重要性があらためて注目され、調査を起点としたマーケティングの取り組みが増えています。たしかに、顧客の声に耳を傾けることは大切です。しかし、仮説を持たずに調査を行っても、「なんとなくの傾向」しか見えてこず、本質的なニーズやウォンツを察知することには至りません。
マーケティングにおいて重要なのは、調査することではなく「仮説立案」から始めることです。この記事では、電通、サイバーエージェント、テイクアンドギヴ・ニーズ、タビオなどで数々の経験を積んだ著者が、仮説の精度を高め、調査を“答え合わせ”として活用するための考え方をご紹介します。

※この記事は、『仕事の研究』(美濃部哲也/クロスメディア・パブリッシング)に掲載された内容に、編集を加えて転載したものです。

仮説のない調査からは何も生まれない

何か新しいことを生み出す際には、「仮説シナリオをつくり、その仮説シナリオを検証する」という基本動作がとても重要です。仮説というのは、「具体的なゴールイメージ」と「そこにたどり着くために逆算でロジカルに考えたシナリオ+右脳に響くアウトプット」の全体像になります。

この「仮説シナリオ」を創ることがとても重要です。そして、仮説シナリオが成立するかどうかの目途をたてるための検証をするということが大切です。なのですが、現実は、結構な高い確率でその逆が行われていることが多いのです。

つまり、「仮説をつくるために調査をする」というようなことがあたりまえのように行われています。

どうしていいかわからない場合に、「まずは調査してみよう」という感じで調査をするということをしてしまうケースがあります。でも、それをしたところで、何も分からない、何も見えてこない、なんの気づきや発見もないといった感じで、「やはり、それはそうですよね」というすでにわかりきっていることが確認されるだけのケースがほとんどです。

仮説のない調査からは何も生まれません。

新しい意味や価値、人の心を射止める商品・サービスは、調査からは生まれません。それはなぜか? 生活者の声を聴いたところで、今までの延長線上にあるような「ときめきがないもの」「新しい発見がないもの」「新しい意味や価値のないもの」しか生まれてきません。そもそも、いろいろな商品やサービスがたくさんある今の時代に、そのような商品・サービスをわざわざつくることは、それこそ意味がありません。物質的な欲求、機能的な利便性を満たす商品・サービスはすでに溢れかえっています。

顧客自身も気づいていない潜在的な欲求とは?

多くの人がこの「仮説シナリオをつくるために調査する」という過ちに陥っていることが不思議なぐらいによくあります。たとえば、「顧客視点が重要だ」とか「カスタマーインサイトが大切だ」という言葉の意味をきちんと理解せずに、一般の消費者に「どうしてほしいのか?」「どうしたいのか?」「どういったものがほしいのか?」「どういったサービスにしてほしいのか?」ということを聞くために調査をし始めます。そんなことをしたところで、目新しいヒントになるようなものは一切見つかりません。

なぜなら、「インサイト」=「理想と現実のギャップ」から生まれる「潜在的な欲求」は、「まだ言葉にはなっていないもの」だからです。なので、「まだ言葉にはなっていない欲求」を満たすようなものは、それを生み出そうとしている当事者自身が、日々の観察やインプットしている一次情報を頼りに、ロジカルに組み立てながら、「想像していく」しかないのです。

新しい価値を生み出すような仕事をする人、新しい価値のある商品やサービスを生み出した人に、仮説をつくる前に調査をしている人を見たことがありません。プロフェッショナルの人たちは、調査結果などの情報を頼りにはしません。プロフェッショナルは、「世界で一番大切な、たったひとり」をじっくり観察して、深く調べていくことを徹して行っています。時には、自分自身がその「世界で一番大切な、たったひとり」になりきってしまいます。

一方で、「仮説シナリオが本当に良いものなのか?」「仮説シナリオをもとにつくった商品やサービス、そして、クリエイティブ表現などのアウトプットが本当にお客様の心を射止めるのか?」「お客様になっていただけそうな規模(広がり、人数、購入・利用金額と頻度、など)はどの程度か?」といったことを検証するために調査をすることには意味があります。その目的で、定量調査やフォーカスグループインタビューなどをすることによって検証をしていきながら進めるのは良いことです。検証した結果、仮説シナリオが外れていた場合は、違うシナリオとコンセプトをつくっていく必要があります。

調査は仮説シナリオを検証するために行う

私の場合は、自分の頭の中にある一次情報の記憶とインターネットで少しだけ調べて見つけた情報だけで、時間をかけずに仮説シナリオをつくりコンセプトを導き出します。そうして生まれたラフのアウトプットを、周囲にいる人の中で「世界で一番大切な、たったひとり」に近しい人に見せたり、読んでもらったりします。そのような仮説検証を何度か繰り返して、仮説を磨いていって、シナリオとコンセプトを完成させていきます。

次に、どの程度の市場規模になるのか? といった定量調査をするための費用をかけられない場合は、磨いた仮説をもとにアウトプット(商品、サービス、クリエイティブのアウトプット)を最小限の時間と費用でつくり、周囲にいる「コミュニケーションターゲットになる範囲の人たち」に見てもらい、反応を確かめていきます。

本書でもたびたび登場するTabio(靴下屋)の父の日の展開では、このビジュアルと言葉を導きだすまでの間、「調査」するというようなことは一切行いませんでした。

頼りにしたのは、自分自身で108店舗のTabio(靴下屋)のお店に足を運び接客を受けて商品を購入した時の記憶と、自分の頭の中にある「お父さんに対して心からありがとう」と伝えている人の記憶、いつか見たドラマや映画で「お父さんにありがとう」と言っているシーンの記憶、公園やショッピングセンターで見たことのあるお父さんと子供たちが戯れるシーンの記憶、そして、私自身の子供たちとの記憶や幼かった私と父との記憶などです。

そうして生まれた仮説を検証するためにしたことは、「言葉と身振り手振りで、周囲にいた20代から50代の人たちに伝えて反応を確かめる」という手法でした。

仕事の研究

著者:美濃部哲也
定価:1628円(本体1480円+税10%)
発行日:2022/3/1
ISBN:9784295406594
ページ数:256ページ
サイズ:188×130(mm)
発行:クロスメディア・パブリッシング
発売:インプレス

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