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ブランド戦略の実践〜シン・ブランド論【第5回】〜

# ブランド戦略

日本におけるブランド戦略の権威の一人、中央大学名誉教授の田中洋氏を講師にお迎えし、全5回「シン・ブランド論」をテーマにお話しいただきました。

ご自身の実践的な知見を豊富に蓄積してまとめ上げた著書『ブランド戦略論』をベースに、新しいコンテンツを付け加え、昨今のデジタル時代に求められるブランド論から未来のブランド論に至るまで、クロスメディアグループ広報の濱中悠花がインタビューを行いました。

本日は第5回「ブランド戦略の実践」です。

第1回はこちら
なぜシン・ブランド論なのかシン・ブランド論【第1回】〜』

第2回はこちら
ブランドの歴史〜シン・ブランド論【第2回】〜

第3回はこちら
ブランド戦略の構造〜シン・ブランド論【第3回】〜

第4回はこちら
ブランドの現在と未来〜シン・ブランド論【第4回】〜

なぜブランドをうまく実践できないのか

濱中:前回は、「ブランドの現在と未来」というテーマでお話しいただきました。今回は第5回「ブランド戦略の実践」です。ブランド戦略を実践しようとして壁にぶつかっている方々に向けて、うまくいかない原因について教えてください。また、どんな企業でも実践できる方法についても教えてください。

田中第1回でお話ししたように、ブランドの議論をしようとすると、いろいろな混乱が起きてしまっています。そこで、ブランドという言葉が何を意味しているのか、ブランド戦略はどのような構造をしているのかを、ここまでのシン・ブランド論でお話ししてきました。

しかし、ブランドの議論となると抽象度が上がってしまい、組織的な対応が難しくなってしまっているのが現状です。まずは、ブランドの何が問題になっているのか、解決するとどのようないいことがあるのか、といったことを考えてイメージを掴む必要があります。

課題の把握

田中:まず、課題の把握を行いましょう。自社のブランドを点検し、現状を把握します。

例えば、知名度が低いという問題があるとしましょう。一方で、すべての人に知ってもらう必要はありませんし、お客さまの中でも、伝わってほしい人に伝わっていればいいのです。誰にどのくらい知ってもらうのかを考えることが、知名度の課題の把握につながります。

そして、その課題を競合と比較したり、客観的な視点から見たりして、課題を具体的に絞り出していきましょう。

出てきた課題には、優先順位をつけて取り組むことが重要です。中には、解決に時間がかかる課題もあると思います。その場合は、長期的に解決したいものと、短期的に解決したいものというように、時期をわけることも一つの考え方です。

濱中:課題を把握することがブランド戦略の第一歩となるんですね。

ブランド戦略の目的の設定

田中課題を把握したあとは、目的や目標を設定しましょう。具体的に、できれば数値で設定します。測定可能かどうかが重要なポイントです。

例えば、知名度が課題であるとき、「再認知名率」という指標を目標に設定することができます。再認知名率とは「○○というブランドを知っているか」というように、ブランド名あるいはシンボルを提示されたときに、すでに知っている状態の割合です。

「現在はブランドの再認知名率が20%で、3年後には50%にする」というように、いつまでに目標数値を達成したいのかを決めていきます。

知名度について詳しい記事はこちら↓
3つの知名度を理解して、最適なマーケティング施策を実施しよう

濱中:再認知名率という指標は初めて聞きました。ブランド戦略というと、どうしても大きくて遠いものに感じてしまいますが、具体的な数値目標を一つおくだけで、取り組みやすくなる気がします。

田中:ブランド価値を高めるためには、信号化と理念化というあり方が肝になってきます。ぜひ参考にしていただきたいです。本当はもうひとつ、ブランドの「経験化」という現象もあり、これは信号化と理念化のふたつに関わっているのですが、また別の機会にお話しします。ブランドを考えるときには、周りの環境にも目を向けてみてください。環境の変化を捉えながら、ブランドを変化させていくことも大切です。

濱中:目的を設定できたところで、次は、実践方法を教えていただきたいです。

実践へのヒント

田中「ストーリーマーケティング」という手法を紹介します。

身の回りのブランドを思い浮かべてみてください。何らかのストーリーを語れるのではないでしょうか。例えば、ディズニーだと、どのようなキャラクターがいて、そのキャラクターはいつ生まれて、といったこと。また、自分自身の思い出もストーリーに入ります。例えば、「ディズニーランドで小さい頃にお誕生日会をやったこと」などです。

私たちが知っているような著名なブランドには必ずストーリーがあり、誰もがそのストーリーを少しでも語ることができます。ストーリーがあると、そのブランドへの思いが深くなるのです。

濱中:たしかに私も、ブランドのもつストーリーに触れて心が動き、ブランドを好きだと感じることがあります。

田中:おっしゃるとおりで、人々はストーリーをもつ企業に共感を抱きます

2022年、ソニーとホンダが電気自動車の開発に向けて提携したというニュースがありました。そのとき、SNSで「こうなればいいなと思っていたことが実現した」という投稿を見かけたんです。

ソニーは、盛田さんと井深さんという方がつくりあげた世界的な企業です。また、ウォークマンをはじめとする有名ブランドを世の中に送り出してきました。ホンダは、本田宗一郎さんという、工場の親父とよばれる創業者が静岡の浜松で創業した会社です。バイクの製造から始まり、今やジェット飛行機も有し、世界のホンダといわれています。

私たちはこのようなストーリーを話すことができます。だからこそ、二社が手を組むことは、多くの人にとって感動的な出来事だったのでしょう。

濱中:では、企業がストーリーマーケティングを実践したいとき、どのような手法があるのでしょうか?

田中本を出版し、伝達していく方法をおすすめします。この手法を「ブックマーケティング」といいます。

企業の考え方や事業内容をまとめた本は、組織内への理念浸透に役立つだけではなく、採用活動で自社への理解を深めてもらえたり、株主などのステークホルダーに対して自社の魅力に気づいてもらえたりする有力な手段となります。

濱中:魅力的ですね。どのような本が当てはまりますか?

田中:例えば、『世界が変わる空調服』という本を紹介します。

空調服とは、小型のファンを内蔵した作業着のこと。工事現場で働く人たちに向けてつくられた服で、服の中に外気が取り込まれることで、身体が冷やされて快適な状態が保たれます。

現在の空調服の市場は300億円規模といわれており、世界各国でも多くの人が着用しています。今日今では作業着だけではなく、一般にも着られるようになり注目されていますが、その開発秘話はあまり知られていません。

この本を読めば、発明のきっかけや開発者の思い、どうして多くの人から必要とされるようになったのかがわかります。

濱中:一冊の本にストーリーが体系的にまとめられており、わかりやすかったです。

田中:もう一つ、『そこまでやるか、をつぎつぎと。』という本を紹介します。

川島製作所という、およそ100年の歴史がある包装機メーカーの物語です。どのような思いで経営をしてきたのかが、シンプルに本のタイトルになっています。

この本では、ワクワクするようなモノづくりで世界を変えてきた川島製作所の挑戦が、著名人との対談も交えながら語られています。

濱中:本をじっくり読んでもらうことで共感を抱いてもらい、企業やブランドのファンになってもらうことができますね。

まとめ

濱中:では最後に、今回のまとめをお願いします!

田中:今の時代に企業がブランドをつくろうとするとき、一つのメディアだけではなく、様々なメディアを組み合わせていくことが必要だと考えています。

そのときに、本をつくってストーリーを伝えるブックマーケティングの手法を使うことを検討してみてください。本は一度出版すれば資産となり、セミナーで配布したり、コンテンツをデジタルメディアで展開したりするなど、可能性は無限に広がっています。

濱中:ありがとうございました!それでは今回をもちまして、全5回にわたる「シン・ブランド論」を終了いたします。ご質問などあれば、お気軽にご連絡ください。